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あの後、武ちゃんから東京合宿決定の知らせを受けて、さらに士気が高まった烏野排球部。毎年恒例である音駒を含めた梟谷グループの合宿に混ぜて貰えることになったそうだ。それに参加するためにはまず、期末テストがあるんだけど…。
「今回も頼む!!」
「お前だけが」
「「頼りだ!!」」
「…えぇ、」
澤村先輩に散々搾られたおバカ二人は、うちの教室までやってきて頭を下げた。力はもう目が座っていて、去年から懲りずにまだ授業中寝てるのかと文句を垂れている。
この二人だけでなく、冷や汗をダラダラ垂らしていた一年変人コンビが少し心配ではあるけど、自分の勉強をこなしながら一年の内容を思い出すには少しリスクが高そうだ。そういえば、中学の時も飛雄に頼まれてちょっとだけ勉強見たことあったなあ。
「分かったから、絶対に私の言う通り勉強してよ?」
びくりと肩を揺らした二人にもう一度念を押すように見つめると、渋々ではあるが頷いてくれた。
心配が拭いきれないけどやるしかない。
「…力もいるし、頑張るか」
「紬がメインだからね。俺英語やばいし」
「ゲ!じゃあ、木下くん!」
「俺!?」
二年生は今日も賑やかです。
◇◇◇潔子さんが新しいマネージャーを探しているのは知っていた。
自分が三年生だから今のうちにやれることをやらないと、という綺麗な微笑みを見せられて仕舞えばそれ以上の探求はできなかった。きっと、潔子さんがやるべきと思ってやっていることだから、私が口出しすることではないと思った。けど、
「潔子さんが引退しても私が居ますよ?」
「…そうなんだけどね。でも、」
正直なところ、私だけじゃ心配なのかなという劣等感を抱いてしまったのも事実なわけで。マネージャーを探していることを私に相談してくれなかったのも、それを考えてしまう原因の一つだったと思う。
「烏野はこれからどんどん強くなる。きっと来年は新入部員ももっと増えると思う。それなのに、紬ちゃん一人じゃ大変でしょ?」
「…はい」
「決して紬ちゃん一人じゃ心配ってわけじゃないよ?負担を減らすためなの。それを見据えて、今私がやれることは全部やりたい。…いいかな?」
「はい…!」
真っ直ぐ私の目を見てそう語る潔子さんは、本当に美しい人だなと思った。私もこんな先輩になりたいって改めて思わされる。
だからこそ、嬉しかったんだ。
「えっと、新しいマネージャーとして仮入部の…」
「やっ、谷地仁花です!!」
谷内さんの登場に、おぉー!?マジかすげぇ!と次々に部員たちの声が上がる。
部活に入っていない一年生を探していると言っていたから、潔子さんも日向や飛雄にも聞いて回ったんだろう。なんだか良い子そうで安心する。
「潔子さんと同じくマネージャーの遠藤紬です。二年です、よろしくね」
「…は、し、シャチ!」
「? シャチ?
」
「今日は挨拶だけだから、明日からまたよろしくね」
聞いた話によるとまだ入部は悩んでいるみたいだったけど、一年生にはバレー馬鹿がいっぱいいるから上手に勧誘してくれるんだろうな。この先のことを考えたら、少しだけワクワクが増えた気がする。
「マネージャー増えたら強豪っぽいな!」
「そうか?」
「影山は中学からマネージャーいっぱい居たから慣れてんだべ」
「…そうっすね。確か、紬さんの他に二人はいました」
「覚えてねぇの!?」
飛雄、日向、菅原先輩の会話に聞き耳を立てながら頭を抱えそうになる。三年間お世話になったマネージャーの存在を、ぼんやりとしか覚えていないなんてどういうことだ…。
「大体及川さん目当てだったし、紬さんが一番良くしてくれてたんで」
飛雄の言葉は、失礼だけど基本的にデリカシーがないと思う。だけど間違っていることは言わないし、嘘もつかない。好きも嫌いも全部真っ直ぐストレート。だからこそ、彼の口から出たその言葉が、マネージャーである私に真っ直ぐ届いた。
嬉しいな、そんな風に思っていてくれたの。
潔子さんの言葉に納得したとはいえ、やはりマネージャーとしての自信が少しだけなくなってしまっていたのも事実。だから飛雄の一言に救われてしまったな。
「羨ましいな」
「そうっすか?でもあの人入ったらマネージャー三人になるんで、同じっすね」
「そういうことじゃねぇ!…まぁ嬉しいけどさ」
菅原先輩の気持ちはやっぱりわからない。だけど少しだけ声のボリュームを下げて言われたそのセリフに、どうしても期待をしてしまう私は馬鹿なんだろうか。