8.5

◎過去拍手文
◎本編8話の裏話。

◇◇◇


烏野高校排球部には、女子マネージャーが二人居る。県内外問わず女子マネージャー自体を取っていないところも多い中、この人数で二人いることは珍しい部類に入るのではないだろうか。女子マネがいるかいないかで強さが変わるわけではないけれど、部員のモチベーションが上がるというのは少なからずあるもので。

「くッ、潔子さん今日も美しいっす…!」
「というか力!今日潔子さんの手伝いしてたろ!抜け駆けすんな!」
「いや、重そうな荷物持ってたら当たり前でしょうが」
「どうしたらいいか教えてくれ!!!」

そのマネのうちの一人である清水潔子は俺の同級生で、かなりの美人だ。現に今、後輩たちの話題の中心にいるわけだが。

部活前にわけのわからない会話を繰り広げて頭を下げる田中に苦笑を浮かべつつ、会話の内容に耳を傾ける。まあ崇めたくなる気持ちはわからんでもないような気もするな。

「スガさんとか大地さんは、よく潔子さんとマトモにしゃべれますよね。やっぱ同級生だからっすか……」
「まぁ、確かに少しは関係あるかもしれないな」
「清水は超絶美人だけど、やっぱ田中とか西谷が思うみたいな感情は無いよな」
「龍って別に潔子さん以外の女子には普通だよな!紬とか。」

部活しか脳がない奴らとはいえ、一応男子高校生。部室でこんな話に花を咲かせるのは珍しいことではない。大体この手の話は田中の一言から始まることが多い。
田中といえば、入部初日に清水に対して初対面プロポーズしたのが記憶に新しい。言って仕舞えばマイナススタートのところからここまで会話ができるようになったのは、俺からしてみれば結構な進歩だと思うけど…。

「あー、まあ、あいつは女子だけどザ・女子!って感じじゃねぇな」
「いやいや、そんなことはないだろ……」
「そうっすか!?…まぁ、可愛いっちゃ可愛いっすよね。でもなんか…なんつーか、どっちかといえば兄弟?って感じしません?」
「確かに紬が田中の面倒見てるから姉貴だな」
「え?俺が兄貴だろ、どう考えても!」

話題の対象がもう一人のマネージャーである後輩女子に移ったところで、俺はなんとなくその会話に入りづらくなった。新学期からは少し遅れて入部してきた彼女は、田中と西谷がゴリ押しで入部を薦めた子だ。中学時代に強豪と呼ばれる北川第一でマネージャーをしていたという彼女は、確かに入ってすぐに部に馴染み、マネの仕事も卒なくこなしていた。

「そういや、あいつ彼氏とか居んのかな」
「いないんじゃね?」

あまり聞いていたらいけない話なのかもしれない。直感的にそう思ったんだけど、田中と西谷の会話がどうしても気になってしまってついつい耳を傾けた。

「仲良いって言ったら力だよな!知ってる?」
「あー……いや、知らないけど」
「なんだその感じ!なんか知ってんだろ!?」
「いや、本当に知らない」
「お前らが付き合ってるとかじゃねぇよな!?」
「それはないって。」

だよなぁ、と周りの一年は納得していたけれど、俺はそうだとは思わなかった。だって二人して下の名前で呼び合ってるし、仲良いし。なんとなく周りから出ている空気がそれっぽい。なんで近くで見てるのに気づかないんだろうなあ。

この二人付き合ってるよなと俺の本能が察したのは、ついこの間のことだった。別に部内恋愛は禁止してないし、あの二人なら速攻別れてトラブルとかならなさそうだしいいんじゃないかな。そう、仲が良いのはいいことだ。何度も言うが、部活に打ち込んでいるとはいえ、人生で一回しかない高校生なんだから。

なんでこんなもやっとするんだ。…てか、モヤっとしてたんだ。

「スガ、百面相だけど」
「……旭、うるさい。」
「なんでっ!?」

心配した旭の方を強めに突いて戯れあう。多分紬は別に好きな人がいるんだと思うよ、と眉を下げた縁下の声は、そっちに意識を持っていかれた俺の耳には届いていなかった。

◇◇◇


「…遠藤といえば、スガさんだよな」
「まだ続けるんだ、その話。」

着替えが終わり部室と体育館の鍵を閉めながら、思い出すように呟いたのはまたもや田中だった。恒例となっている坂之下商店に向かうと言って先に行ってしまった。俺たちも早くそれを追いかけねばならないのだが。

「合宿の時、颯爽とおんぶしてったしな」
「それそれ!」
「あん時ドキッとしたもん、俺。」

西谷、田中、木下が順に同意する。菅原さんは俺と紬が付き合っていると完全に思っているらしい。それは事実無根だし、むしろ彼女は…。直接聞いたわけではないけれど、なんとなく察するにそうなのではないかと思っている。

「あの時の菅原さん、なんか当たり前って感じだったよなあ……」
「「確かに……」」

高校生の男子が、女子をあんな軽々おんぶできるか?ということだ。相当女子慣れしているか、何か理由がないとできないんじゃないの?と思ってしまうけど、菅原さんにとってはそうじゃないのかもしれない。

「ま、とやかく言うことじゃないでしょ。俺たちが」

まあそうだな、と頷き合って先輩たちの背中を追いかける。菅原さんは先輩だし、いつも落ち着いて周りを見ているタイプだ。きっと収まるところに収まるんだろうと思うからあまり心配はしていないけど、しっかりしているようで少し抜けている同級生が少し気に掛かる。

気にしすぎて自分のことは後回しのタイプだから、自分の気持ちにいつか気づいた時には、サポートしてあげてもいいかな。
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