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「んで、何があったわけ」
「…言わなきゃダメ?」
「そんなに言いたくないならいいけど。」

教室の片隅、私は縁下力と向かい合っていた。昨日頭がぐちゃぐちゃになってしまった末に明日話すから!と逃げの一手を選んだ私に声をかけたのは当たり前だけど力だった。
今日一日部活にいく直前までトイレに行ってみたり購買に行ってみたりと逃げ切っていたけれど、部活で同じ場所に向かうのだからもう逃げられない。

「あのー…えっと、幼馴染と」
「青城の及川?それともエースの方?」
「主将の方、です。」
「主将の方と?」
「デート、することになりまして」
「……は?」

力のあまりにもぽかんとした表情に、私は苦笑いを浮かべるしかない。

「んで、そのデートがどうしたの」
「それが菅原先輩に聞かれて、また勘違いされてしまいまして…」
「はぁ、」

目の前の椅子にどっかり腰掛けていた力は、私の言葉に溜息を溢した。流石に、溜息つきたいのは私も同じです。
デートという言葉自体が私の中に引っかかって厄介なのに、それに加えて菅原先輩に聞かれてしまうとは。つくづく私は恋愛というものに向いていないのではないかと思ってしまう。

「それ、断んないの?」
「…もし断ったとして、また前みたいに話せなくなったりしたらと思うと」

うーん確かに、そう言葉を濁らせた力と私の会話は、始業を知らせるチャイムによりそこで終了となった。
そうなのだ。やっとの思いで関係を修復に持っていったばかりなのに、今回の一件でまた拗れてしまったと思うと断るに断れない。デートという言葉は引っかかったとしても、徹くんは私にとって大切な幼馴染であることは変わりないから。


「男子は先輩たち引退しないんだよね?」
「えっ、うん、みんな春高いくって言ってたし…」
「女バレは先輩たち引退なんだよね」

昼休み、いつものように窓際の私の席に集まってきた沙良とみっちゃんは惜敗の悔しさを乗り越えて前よりもシャンとしているように見えた。

女バレの三年生はインターハイで引退らしい。寂しくなると眉を下げる二人にどんな言葉を掛けていいかわからなかった。確かに先輩たちは、今年の初めに一緒に春高へ行くと言っていた。だけど昨日の敗退を受けて、引退するかしないかの話は実際のところしていない。

「引退、しないよね…」
「澤村先輩たちが春高いくって言ってたなら、きっと引退しないよ」

二人は励ますように私の肩を叩くけれど、一度過ぎってしまった可能性は私を不安にさせてしまうもので。午後の授業はあんまり集中できていなかったと思う。

どうやらそれは他の同級生たちも同じだったようで、放課後廊下で落ち合った西谷と木下くんも少し不安げな表情を浮かべていた。
部活の時間を迎え、それぞれ着替えて体育館に集合する。

「3年生来ねえな…」

1、2年が準備を終えて体育館に揃う中、田中の静かな声が響いた。

「でも菅原先輩、また部活でって言いました!」
「…そうだよね」
「大丈夫だって」

日向の一言でホッと空気が緩んだのがわかる。周りだけじゃなくて、私の張り詰めていた心も少し緩んだ。
菅原先輩がそう言ったのなら、きっと三年生は来る。大丈夫。

「やばいやばい!早く!」
「スガさん!」

バタバタと声と共に駆け込んできたのは、菅原先輩をはじめとした三年生だった。

「いくぞ、春高!」
「おっしゃあああ!!」

にかっと太陽のような笑みを浮かべた先輩の表情に、なんだか泣いてしまいそうになった。菅原先輩に続いて入ってきた澤村先輩と東峰先輩も笑っていた。最後に体育館に入ってきた潔子さんにグータッチを求められると、じんわり胸が暖かくなる。改めて私は、この先輩たちが大好きだ。

割れんばかりの大声が心地よく感じて、それにまた笑みが溢れた。
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