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二回戦の伊達工業vs烏野は、苦戦を強いられたものの烏野の勝利だった。やっぱり相変わらず伊達工のブロックは強靭で、かなり威力が上がっているはずの東峰先輩のスパイクですら止められた。でも、烏野はもうあの時とは違う。個々のレベルアップはもちろん、部員同士の連携だってレベルが上がってる。それに何より、最強の囮がいるんだから。

結果、伊達工ブロックは小さな日向の囮にまんまと引っ掛かってくれた。おかげで東峰先輩が気持ちよくスパイクを打てていた。西谷が痣をたくさん作って身につけたブロックフォローも見事に機能していて、これこそ対伊達工の理想の形。まだまだではあるけれど、それがしっかり形になっていた。

「お疲れ様でした!」
「おう!」
「旭、ばっちりだったな!」

終わってすぐ、一回戦よりも階段を駆け降りる足取りが軽かった。早く、お疲れ様とおめでとうを伝えたかった。大好きな、先輩に。大好きな、仲間に。

笑顔で迎え入れてくれた先輩たちに労いの言葉をかける。きっとこの一戦で、東峰先輩はあの日のトラウマを乗り越えることができたんだろうな。いつも少し頼りなさそうに見えるその背中が、シャンとまっすぐ伸びていた。


合計二試合を勝利で収めた烏野は、今日の試合はこれで終わりだ。
明日の一発目、相手は青葉城西。そんな青城が今ちょうど試合を行なっているので、見学をしてから学校に戻ることになった。みんなで連れ立ってギャラリーに腰掛けながら、先ほどの徹くんの言葉を思い出す。

『そしたら、一日俺とデートしてよ』

何故か気まずいはずだった徹くんは、悪巧みをする小さい子供のような表情をしていた。誰かに挑発をするような表情。意図が全く理解できなくて、頭の中がこんがらがるばかり。というか、デートって。

今までだって二人で買い物行ったりしていたのに、デートと言われてしまうと意識せざるを得ない。

青城の試合は、危なげなく青城の勝利に終わった。明日の対策と傾向を練ろうとも、やっぱり烏野にとって青城は戦いにくい相手だということを再確認させられるばかり。徹くんを中心にしたチームプレーの柔軟さは、本当に青城の強みだと思う。攻撃力重視の烏野にとって、そうして対策を即座に練ってくる相手はとても戦いにくい。でも負けない。烏野は、絶対に勝つんだから。


「紬ちゃん、ここな」
「菅原先輩!」

帰りのバスも、また菅原先輩に隣に座れと導かれた。行きはたまたま席が埋まっていてお邪魔させてもらったけれど、帰りは荷物の積み方次第でどうにかなったはずだ。だけど、好きな人に誘われてしまえば当たり前に舞い上がってしまうわけで、内心るんるんで菅原先輩の隣に腰掛ける。

顔に出てしまっていたのかと心配になる程、隣に座る先輩は私を見つめてくる……気がする。

「私、なんかついています?」
「…あ、いや。何も。」

自意識過剰かもしれないけど、バスが出発して暫く経ってもチラチラと視線を感じてしまって、意を決して問いかける。だけど先輩はすぐに私から目を逸らして、気まずそうにはぐらかした。
気のせいかもしれないと思い込もうとしたけれど、きっと勘違いじゃない。私、先輩にまた何かしてしまったんだろうか。

合宿の時の嫌な予感が急に蘇ってきて、手のひらが汗でじっとり湿ってくる。嫌だなぁ…、きっとまた何か気に触ることをしてしまったんだ。胃がキリキリと痛んで、不安な気持ちを押し込むように目を閉じる。


それから、どのくらい経った時だろうか。

緊張が和らいでやっと本当の眠気がやって来た頃、私の左手に先輩の指先が触れた。びっくりしたものの、たまたま当たってしまっただけだろうと気にしないフリをする。それでも、先輩はそっと指を絡ませて私の左手を握った。

「…!」

どういうこと?私の脳内はパンク寸前。菅原先輩の右手と、私の左手が繋がれている。そう、これはたまたま触れてしまったとかではない。繋がれている。

心臓がバクバクと鳴ってうるさい。何も言われないし、私から声を発することもできない。なんなら、菅原先輩のことを見ることもできない。ぎゅっと目を瞑ったまま、咄嗟に起きていることがバレないように寝たふりをした。

それから暫く、そのままだった。その手が離されたのは、たぶん数十分後のことだった。それまでずっと手が握られていて、私は手汗かかないように、かかないようにって必死で心の中で繰り返した。(初めから胃が痛くて手汗すごかったけど)あとはとにかく、寝ているふりに徹していたのだ。

「遠藤ちゃん、着いた」

近くで先輩の落ち着いた声がしたのは、それからさらに数分後のことだった。不自然に見えないようにゆっくりと目を開けた私は、菅原先輩の顔をちゃんと見れていたのか分からない。学校に到着して、特集されていたという地方のテレビ番組を部員全員で見た。

だけどそれも半分以上記憶がなくて、私は手に残っていた菅原先輩の温もりを確かめるように手を握るだけだった。

どうしよう、何が、起きたんだろう。

ずっと距離が近かったせいで、菅原先輩の制汗剤の香りが私にも移ってしまっている気がした。それがさらに私の心臓を煩いくらいに動かして、どうしようもなく苦しい。分からない。先輩が、分からないよ。
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