23

あっという間に4月がやって来た。あの、新鮮さと不安の両方を抱えてこの門をくぐった日から一年が経つ。
長いようで早くて、濃密すぎる一年だった。あの日は一人ぼっちだった私は、この門をくぐったら仲間が、友達が、たくさんいる。幸せなことだと思えば思うほど頬が緩んで、私だって今日から先輩なんだ!という気持ちを新たに気持ちを引き締め直した。

「紬、おはよ!」
「沙良!今年も同じクラスだったらいいなあ」

まぁ、特進クラスは今年も4組と5組のみ。確率は2分の1なので、同じクラスなんじゃないかと思ってはいる、けど…。

「あ、同じだぁ」

間も無くして、そんな気の抜けた声隣から聞こえてふ、と吹き出す。さほど心配していなかったけれど、あまりにもあっさりすぎて笑えた。
今年も沙良と力と同じクラスだった。あ、あのみっちゃんもいるし、結局体育祭の後付き合うことになったみっちゃんの彼氏である川西くんもいる。楽しくなりそうだ。バレー部で言うと昨年は違うクラスだった同じく特進の成田くんも同じだった。

「今年は去年よりも賑やかになりそうだね」
「うん。とっても楽しみ!」

ふわふわと浮かれた空気はそのままに2年4組と書かれた扉を開けると、期待通り賑やかなクラスメイトたちが待っていた。

「飯田!あー、紬も一緒!?やったやった!」
「うぎゃ、みっちゃん痛…」
「朝からほんとうるさい、元気すぎ」

教室で川西くんと話していたみっちゃんは、私と沙良を見つけるや否や突進してきた。わたしたち二人をまとめて、これでもかという程強い力で抱きしめてくる。ごめんごめんと笑うみっちゃんと、嫌そうな顔をしつつも楽しそうな沙良。そんな二人を見て私も自然と顔がにやけてしまって笑われた。
楽しい一年が始まりそう。

「力、今年もよろしくね」
「うん。去年よりも賑やかそう」
「…力のお世話力が最大限発揮されそうなクラスだね」

はぁ、とあからさまに溜息をついた力の表情も柔らかくて、なんだかんだ嬉しいんだなぁと心が躍ったのは本人には内緒の話だ。

『そういえばさ、2年4組って菅原さんのクラスだよね』

え。授業中光ったスマホに目をやると、沙良からの通知だった。文章の意味を理解して顔が熱くなる。どうしよう、ついこの間まで、先輩がこのクラスにいたのか。その事実に直面したら嬉しいようなむず痒いような、温かいものがお腹にぽちゃんと落ちた。

◇◇◇


「お前らまた同じクラスかぁ」
「ん、まぁ特進2クラスしかないし、なかなか離れることないよね」

大体の授業が自己紹介で終わった新学期当日、勝手に決められてしまった委員会の仕事があるという力と成田くんを教室に残して、田中と私は部室に向かっていた。西谷と東峰先輩がいない部活には未だ慣れないまま、新学期がやってきた。
ピュウピュウと隙間風が吹いているような感覚だけど、もう誰も意図的に二人の名前を出すことは無くなった。前だけを見て練習して、二人が帰ってくる場所をしっかり作ることが今できることだとわかっているようだった。

「お疲れ!どうよ新学期は」
「スガさんお疲れ様です!学年変わったからってなんも変わることねぇっすよ」
「はは、確かになあ」

菅原先輩は今年は澤村先輩と同じクラスになったようで、二人揃って部室に向かっていた。

「遠藤ちゃんは?今年も縁下と同じクラス?」
「はい。あ、でも今年は成田くんもいますよ」

なんでもない会話を続けながら、部室の前で部員と別れた。
そういえば、一年生は何人入るんだろう?入部届は全部潔子さんが取りまとめていたから、私はまだ何も知らない。後輩はどんな子でも嬉しいものだけど、優秀な子たちが入ってきたらもっと嬉しいなぁ…なんて。


「勝負しろよ!俺と!」
「なんの勝負だ」

ジャージに着替えて体育館に向かうと、聞き馴染みのない声が響き渡っていた。ひょこっと覗くと身長が高い男子生徒と、小さい子が言い争いをしている。側にはさっき別れたばかりの先輩たちと田中がいるから、どうやらあの子たちは新入生のようだ。

「聞けやコラ」
「騒がしいな、バレー部」

どうやら話を聞いてないみたいで、澤村先輩の顔が引き攣る。あぁ、怒られる…。
そう思っていた矢先、私の後ろからもっと厄介な奴の声が聞こえた。

「「げ、教頭…」」
「先生!」

私と田中の声がハモって、それと同時に視線がこちらに向く。飛び火はごめんだと教頭より先にシューズを履いてそそくさと菅原先輩の横に並んだ。

「喧嘩じゃないだろうね?」
「遠藤ちゃん、静かにするんだからね」
「はい……。あれ、飛雄ちゃんと、あの子って……」
「あぁ、そういえば遠藤ちゃんもあの時見てたもんな。後輩と、対戦相手。」

私が教頭を好いていないと知っている菅原先輩は、小声で耳打ちをしてきた。流石にこんなところで文句言ったりしませんよ。

どうやら揉め事を起こしていた新入生というのは私の中学時代の後輩と、中総体で戦った対戦相手のようだ。上から見ている時も小さいなと思っていたけれどこうやって近くで見るとさらにそれが際立つ。多分、身長私と同じくらいかそれよりも小さいかだ。

話を全く聞かない新一年生二人は、サーブレシーブで勝負すると言い始めた。
止める澤村先輩と田中の声も二人には届かない。

あーあ、大変だ。そう思っていたのも束の間、バァン!と飛雄のジャンプサーブが決まって感嘆の声が漏れた。それは私だけでなく、隣に居るの菅原先輩からも。
私が見たあの試合では、確かジャンプサーブは使っていなかった。だけど飛雄は元々センスがある選手だったし飲み込みも早かったから、きっと彼のサーブを見て練習したんだろうな。


その時は、一瞬にして訪れた。
食い入るように二人の行動を見ていたけど、一瞬すぎて目を見開く。飛雄が打った2本目のジャンプサーブは、一瞬オレンジの彼に取られたかと思った。しかし、そのボールは彼自身の画面に直撃し、方向を変えて教頭の頭へ直撃したのだ。

あ、やばい。頭は…。

ボールが頭に直撃したことにより教頭の髪の毛は宙に浮かんで、最終的に澤村先輩の頭へ着地した。その間、実に数秒。

体育館を静寂が包んだ。

「「っ…ぶふ、」」
「こら、お前たち」

無理だ。無理だった。
必死に堪えようとしても無理なものは無理だった。吹き出してしまい漏れた声を抑えるように口に手をやるけれど、時既に遅し。焦る菅原先輩が私たちの頭を叩いたが、一度ツボにハマってしまったものはどうしようもなかった。しかも飛雄が追い討ちをかけるようにヅラだったのか…なんて呟くから余計に笑いが止まらなくなる。気づくの遅いし!

そうしているうちに、澤村先輩は教頭に連れて行かれてしまった。
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