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1セット目。セットカウント2-8。

烏野の攻撃がなかなか決まらない。菅原先輩は周りを見て、田中を使ったり澤村先輩を使ったり戦略的だ。だけど、東峰先輩のいつもなら絶対決まるところのバックアタックですらなかなか決まらない。伊達工のブロックは、徹底的にエースである東峰先輩をマークしているらしい。
そのせいで、攻撃の時は西谷のブロックフォローが必須だ。何度も何度も体育館の床に滑り込むので体力的にも精神的にも心配になってしまうが、ノヤならきっと大丈夫。

「ッフォロー!」
「……んー、なかなか決まって欲しいところで決まんないね。烏野。」
「西谷!ナイスフォロー!!」

「お前、ちょっと黙ったほうがいいぞ」
「ごめん、俺もちょっと空気読めてないなと思った」

伊達工の強靭なブロックに跳ね返されたスパイクを、西谷がギリギリで拾う。大丈夫だ、まだ落ちてない。まだ繋がってる。けど、烏野は返すだけになって精神的に追い詰められてしまう。
1セット目の序盤でこの点差。点差だけならまだしも、自分達の攻撃で得点が入らないというとてつもなく嫌な流れ。気を抜けば途方に暮れてしまいそうなほどの相手チームからの威圧感。コートにいなくても嫌なほど感じてしまうその空気は、コートにいるメンバーたちにとってどれほどのものだろうか。

2-10、3-12、5-18……。
縮まらない点差、しかも烏野のポイントになるときは大体相手のミス。

「旭!」
「オーライ!」
「東峰先輩!決めて!」

コートの声に負けじと私も声を上げる。頑張れ、負けるな、絶対決まる。こういう時田中の声は会場中に響いて安心するなと思ったら勇気が湧いた。私が一番に信じなくてどうするんだ、コートの中にいるみんなを。

第一セット、相手のマッチポイント。田中から菅原先輩に綺麗に返ったAパス。着地点をしっかり抑えた菅原先輩は、東峰先輩の得意なネットから少し離れた高めのトスを上げた。これならイケる!
この場面は、何度も見てきた。この綺麗なトスが上がった時、東峰先輩は絶対にどんなブロックも打ち抜く。いつも通り東峰先輩の声が高らかに響いて、ドン!と心地の良い鋭い音がした。

「……え、」

絶対に決まったと確信していた。だけど、ボールが落ちたのは烏野コート。
誰もが信じられないという顔をしていて、コートの中はシンと静まり返った。一番最初にどんまい!次々!と声を上げたのは澤村先輩だった。次に菅原先輩、田中、西谷、力。次々に声を上げる。だけどただ一人、東峰先輩は顔を上げなかった。

伊達の鉄壁。想像以上に厄介な相手だ。

「血、出ちゃうよ」
「…ん、」

いつの間にか手の甲に爪を立てていたのか、徹くんが私の右手を掴んだ。くっきりと爪の跡が残ってしまった左手をそっと撫でた徹くんがその先の言葉を発することはなかった。

「切り替え!次取り返そーっ!」

ギャラリーから声を上げると、澤村先輩が私に気づいて拳を掲げてくれた。次々に反応を示すのは同級生たち。大丈夫、まだ、1セット取られただけ。次取り返せば問題ない。
グッと拳を胸元で作ると菅原先輩がこちらに笑みを向けてくれた。その笑顔がどうしても作った笑顔に見えてしまって胸が痛む。先輩、大丈夫ですよ。先輩のセットアップは周りをよく見た選手のためのセットアップだから。

「次、一本取るぞ!」

澤村先輩の声が響いて、第2セットが始まった。

「持ってこいっ!」
「旭!」

「オーライッ!!」
「旭っ、」
「東峰さん!」

だけど、第2セットになっても伊達工ブロックの威力が落ちることはなく、東峰先輩は徹底的にブロックにマークされたまま。打っても打っても高い壁に阻まれて、弾かれたボールは烏野コートに吸い込まれていく。

「ノヤ!ナイスフォロー!」
「ドンマイ!もう一本!!」

祈るような気持ちだった。決まって、拾って、お願い。スパイクがブロックに阻まれたとしても、ボールが落ちる前に西谷がそこに滑り込む。繋がることに安心して、会場から歓声が湧いた。
だけど威力の強いスパイクのフォローというのはその威力が強ければ強いほどに大変で、拾えない場合も勿論ある。ボールが床についてしまった瞬間は、みんな悲痛に顔を歪めていた。握り締めた拳が痛々しいほどに。

この場面で決められるのは東峰先輩しかいない。そんな期待と、重圧。今考えれば計り知れないほどの重すぎるものが東峰先輩の全身に降りかかっていたことだろう。

セットカウント24:15。
力が拾ったAパスが綺麗に菅原先輩に返った。決まる、今度こそ決めて、東峰先輩…っ!
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