18

迷子の私に声をかけてくれたのは、なんと菅原先輩だった。休み中に会えるなんて一ミリも思ってなかったから会えて嬉しい気持ちと、ほぼ寝起きで家を出てきた自分を見られて恥ずかしい気持ちが交錯する。

「遠藤ちゃん、1人?」
「えーと、幼馴染と来てたんですけど逸れちゃって……」
「まじ?迷子かよ!ほんとそそっかしいよなぁ」

今気づいたんですが、菅原先輩が私服です。
私服、私服だ!どうしよう!制服かジャージしか見たことなかったから、貴重なものを見ていることに気づく。割とシンプルめにまとめられている服は、先輩の雰囲気に合っていてかっこいい…。

「折角だし一緒に並ぶか」
「…はい!」

思わず頷いてしまった。スマホ持ってるし、二人には後で連絡すればいいか…。
折角会えると思っていなかった先輩に会えたので、少しだけ一緒にいさせてほしいと願って手に持っていたスマホをポケットにしまった。

「まさかこんなところで会うなんてな」
「偶然ですよね。菅原先輩も一人ですか?」
「んや、家族と来てて。弟とはぐれたんだけど……って、やべ」

参拝が終わって甘酒でも飲みに行くかという誘いに同意しながら歩いていると、先輩はハッとした表情を浮かべた。
先輩との身長差は、なんだか落ち着く。隣を歩いてもらうのも、心地よいところから声が聞こえるのも、嬉しくて胸がきゅっとなる。

「もしかして、先輩も迷子ですか?」
「あはは、確かに!俺も迷子だわ。そろそろ戻んないとな。ごめん!」
「あの…!会えて、嬉しかったです!」

今までの私だったらこんなことは言えなかったかもしれない。それでも、先輩が、みんなが私を少しずつ変えてくれたから。ドキドキする心臓を感じながら振り絞った一言はしっかり彼に届いたようで、太陽みたいな笑顔を向けてくれた。

◇◇◇


「ちょっと岩ちゃん!紬いない!」
「……うわ、マジかよあいつ。」

数ヶ月ぶりに会った幼馴染は、しっかりと女の子になっていた。しっかりとって何、って感じだけど、しっかりとというのが一番あっている気がする。元から女の子だなとは思っていたけれど、余計に意識しちゃうというかなんというか。

正直、俺より先に岩ちゃんに会って状況を説明していたのには妬けたな。俺たちを追いかけて青城にくるとばかり思っていたから、ただでさえショックを受けたというのに。それに加えてメッセージは無視、電話も出ない。俺のダメージはMAXだった。
結果的に理由を聞いてまぁある程度は納得したし、紬が紬なりに考えていたという事実には成長を感じて嬉しくなったワケだけど。

「昔もあったよねー、こういうこと。」
「そうだったか?」
「夏祭り三人で行ってさ、紬だけはぐれて二人でちょーう探してさ。見つけたら泣きべそかいて俺に抱きついてきた。」

可愛かったなぁ、あんときは。よく考えたら小さい頃から紬は俺にとって護るべき対象で、目が離せなかった。紬からしてみればそれが足枷になっていたんだから正解なんて今でもわからないけど、俺は別に今までの関係性も間違いなんかじゃ無いと思うよ。

「…あれ、」
「?」

思い出に浸っている俺の腰を強めに叩いたのは岩ちゃんで、その岩ちゃんの指差す方向にいたのは紛れもなく紬だった。

「誰、あの男。」

また泣きべそかいてたら弄ってやろうと思っていたのに、現実は想像の遥か斜め上。先ほどまで自分達の後ろをついて歩いていた幼馴染は、俺の知らない男と並んで歩いていた。その様子はまるでカップルかと思わせるほど仲睦まじそうで、憎悪が浮かび上がる。

「仲良さそうだな。同じ高校のやつとか?」
「…烏野の奴ってこと?同級生かな、アレ」

多分俺より身長が低いその男は、紬と並ぶといい感じに収まって絵になっている。いやいや、何考えてんの?
そいつのことを軽く見上げて頬を緩ませる紬のその表情は、初めて見る表情だった。なんていうの?…かわいい、って言うか、なんかそわそわするっていうか。

「好きなんだろうな、あいつのこと」
「は!?何言ってんの岩ちゃん!」
「…見てわかんねぇのかよ、阿呆か」

分かってるよ。自分で気づいて分かっちゃったんだからわざわざ言わないでよ。
まるでグサリと刺されたかのような衝撃に、目を伏せた。

岩ちゃんと相談して、一部始終を見ていたことは黙っていることにした。お年頃だろうから、というよくわからない考慮だけど助かった。
暫くわかりやすいであろう鳥居の横で待っていると、俺たちに気づいた紬が小走りで駆け寄って来る。

「ごめん、はぐれちゃって…」
「ほんとおっちょこちょいだな、お前は」

岩ちゃんは笑いながら紬の頭を撫でるけど、俺は何もできなかった。
こう言う時は任せるべきだってことは、最近学んだ。岩ちゃんは結局紬に激甘だから、お互いに信頼関係というか…そういうのがちゃんとしている気がする。俺には入れない何かが二人の間にはあるんだと思う。

グサリと刺された傷口から毒が回りかけている。あの知らない男だけじゃなくて、岩ちゃんにまであってはならない嫉妬心が湧いてくる。
本当に嫌になる。お前のことになると自分が馬鹿すぎて。

「岩ちゃん、紬、甘酒飲もうよ」
「うんっ!」

声をかけると、紬は柔らかく笑う。今はこのまま、その顔を見れるだけでいい。
会えなかった数ヶ月間、俺がどんな気持ちだったかなんて、お前はまだ分からなくていいよ。
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