17

「お疲れ様でしたー!」
「ッしたー!」

今日で年内の部活が終わった。明日からは年末年始休み。
ゆっくり休めるー!という喜びと、しばらくみんなに会えない寂しさが半々なのは、ちょっと自分でも気持ち悪いなぁと思ったりしている。

「紬は年末年始何するの?」
「んー、私は家でダラダラして…初詣行くくらいかな?力は?」
「ま、みんなそんなもんだよね」

隣に並ぶ力と中身のない会話をしながら、買ったばかりの缶ココアで暖を取る。雪が降るのも当たり前になってきた今日この頃は、気を抜けば滑って転びそうだ。

「うわっ!」
「っぶねー……!」

言った側からずるりと持って行かれた右足。だめだもう転ぶ!と思ったのに想像していた衝撃はなく、左腕をグッと引っ張り上げられた。

「遠藤ちゃんってちょっとドジだよな」
「菅原せんぱい!」
「よかったなぁ、転ばなくて」
「あ、ありがとうございます…」

パッと離された手は転がった缶ココアを拾い上げて私に手渡す。せっかく温かいの買ったのに緩くなったかもなと眉を下げた。先輩が拾ってくれたんだから緩いかどうかなんて実際のところどうでもいい。
先輩に捕まれた左腕がとにかく熱い。ジンジンする。

「吃驚した…、ほんとに。菅原さん反応はっやいですね…」

反対の隣にいた力が目を丸くしてこちらを見る。確かに。先輩、どうして私が転けるってわかったんだろう…?

「なんか転ける気がしたんだよな」
「え、恥ずかしすぎます…」
「気をつけてなあ〜」

へらりと笑った先輩の手がそっと離れると、当たり前だけど温もりも遠ざかっていく。それがちょっと寂しいなって思ってしまうなんて、私はもうとうとうおかしいんじゃないか。自覚してしまえば、どんどん心臓がうるさくなってくる。
先輩に会えない年末年始休みが始まった。

◇◇◇


5、4、3、2、1……ハッピーニューイヤー!!
テレビの賑やかな音とは裏腹に、我が家はまったりとした新年を迎えていた。年越し蕎麦を啜っていると、スマホがぴこぴこ光る。クラスのみんなだったり、沙良からのメッセージだったり、バレー部のグループチャットだったり。「あけましておめでとう!」で溢れ返っていた。

溜まったメッセージに既読をつけ、程よく返信して眠りについた。少しばかりの不安と緊張を抱えて。

「紬〜!はじめくん来てるわよ!」

かけていた目覚ましの音が聞こえなかったせいで、母親からのその声で目が覚めた。慌てて確認すると、約束していた集合時間よりも10分以上過ぎている。やばい、ヤバすぎる!
緊張していたせいでなかなか寝付けなかったというのもあるけど、流石に寝坊はやらかしすぎてる。

「すみませんでした……」
「まぁ、こんなこったろうと思ったけどな」

ほぼすっぴんで髪の毛だけ整えて家を出ると、はじめくんは呆れたように笑っていた。20分の遅刻のせいで、私は新年早々深々と頭を下げる。

「……あけましておめでとう、紬」
「とおるくん……あけましておめでとう」
「さ、混んでるだろうしさっさと行くべ」

盛って約一年ぶりに会った幼馴染。彼にははじめくんに会った後、私から連絡をした。長文になってしまったけど今までのことを謝って、烏野を選んだ理由も説明した。既読がついてから一週間返信がなくて、心配になってはじめくんにフォローを入れてもらったりもした。
結局返ってきた返信は、ぶっきらぼうな『分かったよ』の一言だけだったけれど、はじめくんが大丈夫だって言ってたので信じることにした。

それから約1ヶ月ほど経っている。一応確執は解けたと思っているけど、あれから直接会うのは初めて。もちろん身長も伸びてるし、体格もよりガッチリしてた。気まずさがないわけじゃないけど、いざ会ってみればやっぱり安心感の方が大きい。

先陣を切って歩くはじめくんの横にとおるくんが並ぶ。二人の背中をちょっと後ろで追いかけるのが久しぶりすぎて、なんかちょっとだけ泣きそうになってしまった。新年だからこそできた図なのかもと思ったら、嫌だった休暇も良いものな気がしてくる。

「まだ眠いの?」
「…え、いや、ううん」

目を擦りながら歩いていたら、振り返ったとおるくんが私を見下ろす。私がしょんぼりしているときによく見せていた、様子を伺うような表情をしていた。

「部活、何してんの」
「……バレー部のマネージャー」
「は!?」

大きめの神社で人混みをかき分けながら三人で歩く。いつか聞かれるとは思っていたけど、いざ言うとどんな反応をされるかと心臓がバクバク鳴った。

「岩ちゃん知ってたの?」
「おう」
「嘘でしょ……納得したつもりだったけど、やっぱりマネージャーするならウチでやって欲しかった」
「お前が紬に世話されたいだけだろ」
「だってマネ欲しいじゃん!それが紬だったらすっごいやりやすいじゃん!岩ちゃんもそう思ってるくせに!」

少しだけ構えていてマイナス思考になっていたけど、徹くんは相変わらずの軽い口調だし、はじめくんはそれに的確なツッコミを入れていて声を出して笑ってしまう。
よかった、今まで通りだ。心配だけが先走って真っ暗な気持ちになっていたのは私だけだったんだな。

幼馴染という繋がりは、そう簡単に切れたりしないらしい。あの日の続きみたいに、また笑うことができるんだ。

「…あ、れ?」

考え込んだ一瞬の隙に、さっきまで少し先を歩いていた2人の背中を見失ってしまった。2人とも身長が高いからすぐ見つかるかなと思って見渡すけど、人・人・人。人が多すぎて姿を見つけることができない。

「あれ?遠藤ちゃん?」
「………菅原先輩!?」
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -