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それから暫くして、力に引っ張られるように成田くんと木下くんも部活に復活した。先輩と同期に向かって頭を下げている彼らを見たときは、流石に我慢していた涙が少しだけ溢れてしまって、周りの人から見えないよう静かに袖で涙を拭いた。
一年のうち二人はそのままやめてしまったけれど、仲良くしてくれていた3人が残ってくれたことは、私にとって本当に嬉しいことだった。

「紬、本当にありがとうね」
「…私は全然、信じることしかできなかった。悔しかったよ。」

教室で話しかけてきた力は、まるでお通夜のような表情をしていてそれにも笑ってしまいそうになった。本当によかった。それだけ。

「嬉しかった、本当に。紬が信じてくれたってことが、嬉しかったんだよ」

そんなふうに笑った力をみたら、少しだけ、ほんの少しだけ、私にもできたことがあったのかもと自信に繋がった。だから、ありがとう。

◇◇◇


あんなに暑かった夏もあっという間に過ぎ去り、カーディガンで心地よい秋がきた。
10月。今日は高校生活で1年に1回、すなわち3回しかやってこないイベントの一つ。体育祭だ。

「紬!ちょっときて!」
「え!?!」

教室に入った瞬間、沙良に腕を掴まれた。そのまま教室の端の席に連行された私は、座らされて訳もわからないまま髪の毛をいじられている。沙良と同じく女バレのみっちゃんは手先が器用だと有名で、みんなヘアメイクをしてもらうもらう約束をしていたそうだ。

「おお〜!紬やっぱり髪の毛上げてた方が可愛いよ」
「ねぇみっちゃん!どういうこと!?」
「だって紬、好きな人いるんでしょ?それならとびっきり可愛くしなきゃ!大事な学校行事だもん。」
「……え?」

「ええええッ!?沙良!?!」

大きい声が出てしまって慌てて口を塞ぐ。私が菅原先輩のことを好きなことは、沙良しか知らない。私に好きな人がいることなんて、沙良しか知らない。眉を顰めて目の前で携帯を掲げる彼女を見ると、全く反省していないような顔色で笑った。
はぁ、と溜息をついて下を向くと、みっちゃんが強制的に顔を上げさせてくる。痛いって。

「…ま、誰だかは知らないんだけどさ。とにかく可愛い方がいいでしょ?ってことで!完成!」

ぽん、と叩かれた肩は暖かかった。

「紬はアップスタイルの方が映えるからまとめ髪して、後ろは編み込みにしてるよ。ばっちり固めたから崩れたりしないと思うけど、気持ちお淑やかにね。」
「…あ、ありがとう、みっちゃん?」

お礼を言うと、他にも予約が入っているというみっっちゃんは、グッジョブ!と親指を立てて去っていった。そうか、これは気合を入れるべき行事なのか。

「体育祭、進展あるといいね」
「なっ…あ、沙良!なに言いふらしてんの!?」
「…あ、ほら、大きい声出すと聞こえるよ?縁下こっち見てるし」
「……はぁ、」

呆れた。確かにこちらを不思議そうに見ていた力と目があったので、なんでもないよという意味を込めて眉を下げておいた。

そしてはじまった体育祭。私は運動がからっきしなので、玉入れと応援合戦という運動神経があまり関係なさそうな競技になった。運動部のマネージャーしてるのに運動神経悪いんだ…と、クラスの男子に揶揄われたのは記憶に新しい。期待通り貢献できずに申し訳ないけど、恥をかくのはごめんだ!

「おー!紬!力!」
「わ、西谷!びっくりした!」

開会式が終わったところで西谷に声を掛けられた。隣には田中と成田くんもいて、2年で写真を撮ることに。木下くんもメッセージで招集した。

「お前なんか雰囲気違うな」
「これねー…なんかみっちゃんがね、やってくれた。」
「あぁ、杉崎?いろんなクラス回ってたよ、そういえば。」
「スガさんに送ってやろーぜ」
「え?」

パシャリ、映った私はひどく間抜け顔だったことだろう。今すぐに菅原先輩に送る理由を問い詰めたかったけれど、その写真は男バレのグループチャットに送信された。すぐに先輩からのチャットがいくつか飛んでくる。その中には潔子さんのメッセージもあって、「紬ちゃん、後で写真撮ろう」と嬉しすぎる文字列が並んでいた。
だけど、菅原先輩からの反応はない。期待していた訳じゃないけど、なんでか少しだけ寂しくなった。

「いけー!田中!」
「おうよ!」

部活対抗リレーに出場する予定の田中に手を振る。体育祭では引退した先輩方も対抗リレーに出場するので、久々の旧体制。黒川先輩がアンカーということで、応援にも気合が入る。
インターハイの一件以来、私は黒川先輩に絶大なる信頼を置いている。それは潔子さんも一緒だったようで、わざわざ一年の所まで迎えにきてくれた。一緒に応援をしよう、と。

結果バレー部は巫山戯倒して(聞いたところによると例年通りだそうだ)、順位は振るわなかったものの、その場の盛り上げ役を全て担ってゴールした。私も久しぶりにお腹を抱えて笑った。

「あ、次は借り物競走みたい。」
「潔子さんは出ないんですね?」
「あー、あれは大体、男子が出るから」

借り物競走はどうやら烏野の名物行事みたいで、1年・2年・3年と部門が分かれて3回行われる。

「…え、なんでですか?借り物競走ってあんまり体力使わないし、女子メインの競技かと」
「まぁ、見てればわかるよ」

クスクス笑う潔子さんは、今日も可愛らしい。途中まで一緒に観戦していた田中と西谷からどこに行った!?と連絡が来ていたので、『潔子さんとデート中』と返信しておいた。どんな反応が来るか楽しみにしておこう。

ピーッ!という笛の音と共に、一年の借り物競走がはじまった。
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