面識のないヒーロー科の一年生から連絡先を交換しようと言われ、次の日にはお昼を食べないかと誘われた。
初めはねじれちゃんに声を掛けたと思ったのに、その対象はまさかの私だった。何も心当たりがなくて怖くなったけど、どうやら悪い子ではなさそうだ。


「ねじれちゃん、あの子どんな子?面識ある?」
「うーんと、ヒーロー科の一年生だよ!轟くんって言って、確か…あ、そう、エンデヴァーの息子だって言ってたかな!そうそう、火傷の火傷の痕の原因は教えてくれなかったよ。」

そういえば、今年の一年生にエンデヴァーの息子がいるって体育祭で聞いたなぁ。

しかし、そんな彼がなんで普通科の私なんかに。共通点としてはあのクラスと関わりがあるねじれちゃんや天喰くんと友達なことくらいだし、昔会ったことある…みたいなロマンティック展開は考えにくい。

「うーん…」
「まあ、とりあえず話してみたらいいよ!悪い子ではないと思う!」
「そう、だよね…」

貰った連絡先を追加したら、トントンと決まる明日の予定。後輩とランチ、といえば響きは良いかもしれないけど、それが学内でも有名な男の子とは。それに…


「あの子、かっこよかったよね。」
「えっ、なまえちゃんなあに!気になる?ねぇ、気になるの?」
「声大きいよねじれちゃん…っ」

ちょっとだけ声のトーンが上がったことをを自分自身で感じながら、明日は何を食べようかなどと浮ついたことを考えていた。

次の日、なんとなく集中しきれないまま午前の授業を終えると、『学食の前で待ってます。』というメッセージが入っていた。待たせてしまっては悪いと、慌てて普通科の教室を飛び出し学食へ向かう。と、その前にまだ人のいない化粧室に滑り込んで、丁寧にリップを塗り直した。
…気合い、入れすぎだろうか。

学食の前に辿り着くと、彼は壁に凭れて立っていた。

学食の壁に寄りかかっているだけなのになんでこんなに絵になるんだろう…。
なんて呑気なことを考えながら、一歩ずつ轟くんに歩み寄る。

「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「…いえ、全然」

表情があまり変わらないと勝手に思っていた彼は、私を見ると少しだけ頬を緩ませた。その優しい表情にどきりと胸が鳴ってしまう。
それに気づいて、額に変な汗が滲んだ。いやいや、自惚れるな。何か聞きたいことがあるだけなのかもしれない。落ち着け、と言い聞かせながら、横に並んで学食へ足を踏み入れた。


轟くんは冷たいお蕎麦が好きらしい。
目の前でもぐもぐとそれを頬張る姿はまるでひまわりの種を頬張るハムスターのようで、思わず笑みが溢れた。

「本当に好きなんだね、蕎麦。」
「はい、先輩は何が好きですか?」
「んー…なんだろう、食べ物だったらチャーハンとか」

初めは、見ず知らずの一年生とお昼なんて何を話したらいいのだろうか、と緊張感に包まれていたものの、会話は思ったよりも弾んだ。それに、一緒に居て楽しくて心地良かった。

「じゃあ、他に好きなものはなんですか?」
「空とか、宇宙とか、…星、とか?」
「…詳しいんですか?」
「……んー、好きなだけ、かな」

チラリとこちらを見る轟くんの目は、グレーとコバルトブルーのオッドアイで、まるで宇宙に浮かぶ惑星みたいに綺麗だと思った。きっと、心も綺麗な人なんだろうな。
純粋に真っ直ぐに私を見る彼が眩しくて、思わず目を逸らす。

お気に入りの学食チャーハンを頬張りながら、轟くんの話を聞く。
ランチラッシュのチャーハンは格別だ。


彼はその後も、いろんな話をしてくれた。
オールマイトの授業はギャグが挟まれているとか、
クラスメイトは面白いとか、
お母さんが入院しているけど最近回復していることとか、
次から次へと出てくる会話に意外だなと思いつつ、安心した。

彼はヒーローの卵と言えど、年相応の男の子だったから。


「ありがとうございました。楽しかったです」
「私も楽しかったよ、ありがとう」
「あの…… みょうじ、先輩」

「ん?」
「また、一緒に飯食べてもらえますか」

名前を呼ばれて、心臓が跳ねたのは、きっと彼が格好良い後輩だから。思わず口角が上がってしまったのは、想像していたよりも一緒に居て楽しかったから。

きっと、それだけ。


「うん、勿論。」

頷くと、彼はまたふわりと笑った。
轟焦凍くん、高校一年生。クールに見えて案外おしゃべりだし、ふんわり優しく笑う男の子。冷たいお蕎麦が好きで、暖かいのはあまり好きじゃない。クラスメイトのことが好きで、ヒーローになるために努力を惜しまない。私が知ってる彼のことはこのくらい。

それでも、もっと知りたいと思ってしまった。

修正:20220802

あなたの形を教えてよ

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