▽年の差幼馴染な怜真


お隣に住んでいる橘さんちのお兄さんは、僕よりも七つ年上だった。背が高くて、いつも優しい。橘さんちとは昔からお隣さんとして家族ぐるみのお付き合いが続いていた。親同士も仲が良く、僕はよくお隣のお兄さん、僕は真琴さんと呼んでいるのだけれど、その真琴さんに小さな頃からよく遊んでもらっていた。
僕が小学一年生、真琴さんが中学二年生の時。僕は橘さんちの前で真琴さんのことを待ち構えていた。夕暮れの中、帰ってきた真琴さんは玄関前に立つ僕を見て少し驚いた顔をした。どうしたの、怜ちゃん。そう言って駆け寄ってくる。
「こんばんは。真琴さん」
「うん、こんばんは。俺に何か用だった?」
「はい。お話があります」
「じゃあ俺の部屋においで。おばさんには言っておくから」
「いいえ。ここでいいんです」
首を振った僕に、真琴さんが不思議そうな顔をした。しゃがみこんで目線を合わせてくれる。悔しいけれど、もう暫くすれば真琴さんの背にも追いつけるはずだから、今はまだ仕方ない。
真琴さんの手を握る。綺麗な両目をまっすぐに覗き込む。
「真琴さん」
「なあに、怜ちゃん」
「僕はまだ子供で、背もあなたより低いけれど、絶対にあなたを守れる男になります。だから、僕と結婚の約束をしてください」
真琴さんの目が見開かれた。ぱちぱちとまぶたを瞬かせた。僕の顔と、掴まれた両手とを交互に見比べて曖昧に笑った。どうしよう、と困っている、そんな顔をしている。急速に気分が沈んでいく。やっぱり僕なんかじゃダメなんだろうか。真琴さんみたいにかっこいい人なら、僕じゃなくたって結婚してほしい人はたくさんいるはずだ。じわじわと目の前がぼやけていく。俯いた僕の頭に触れる、真琴さんのあたたかい手。
「ありがとう。嬉しいよ」
顔をあげるとすぐそばに、真琴さんの美しい笑顔があった。涙の滲んだ僕の目元を指先で拭ってくれる。よしよしと頭を撫でてくれる。
「怜ちゃんは俺が好きなの?」
「はい」
「そっか……。ごめんね、結婚の約束はできないんだ」
「…………」
「でも、もし怜ちゃんが大人になって、それでも俺のことを好きだって言ってくれるのなら、俺も約束のこと、考えてみる」
「ほんと、ですか?」
「うん。本当に」
真琴さんは嘘をついたことがないから、これも多分嘘じゃない。僕は嬉しくて、飛び跳ねてしまって、思い切り真琴さんに抱きつくと両腕でしっかりと受け止めてくれる。絶対ですよ、と念を押すと真琴さんが頷いた。
ぎゅうぎゅうと真琴さんを抱きしめながら、僕は、早く大人になりたい。そう、思った。



2013/09/15 19:15


▽ポッキーゲームする渚真


見覚えのある赤いパッケージを目の前に突き出し、渚が言った。
「マコちゃん、ポッキーゲームしようよ!」
「いいよ」
「いいの?!」
自分から聞いたのに驚く渚は、そっか。いいんだ。うんうん。などと呟きながらポッキーを取り出す。チョコレートのついた方を俺に咥えさせ、反対側を渚が咥えた。
「それで、渚。これってどうなったら勝ちで、何をしたら負けなんだ?」
「えっ、うーん…………折らずにキスできたら二人の勝ちだよ!」
「……それって引き分けって言うんじゃないか?」
「何か言った?」
「別になにも。はい、スタート」
「ちょっマコちゃん!待ってよ!!」
さくさくと端からポッキーを食べていく。うっかり折ってしまわないように、それなりに気をつけながら。
その甲斐あってか、両端を咥えたポッキーがすっかり食べられてしまうまで折れることはなく。
つまり、そういうことだった。



2013/09/15 12:42


▽寝ぼけた怜ちゃん、怜真


隣で眠っていた怜が、ぱちりと目を開け、俺を見た。
「……おはよう、ございます」
「おはよ、怜」
重たそうに上体を起こした怜の髪は、どうやったらそうなるのだろうと疑問に思ってしまうぐらい、あらぬ方向へと跳ねていた。鳥の巣みたいな頭のまま、寝ぼけ眼で近づいた怜が俺の額に唇を落とす。くすぐったくて、仕返しとばかりに寝癖のひどい怜の髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜた。それでもまだ、目が覚め切らない怜はぼんやりとしたままだった。



2013/09/14 17:07


▽センチメンタル御子柴さん、御子江


江くんの笑顔を、夢に見る。まだ一度しか見たことのない、喜色を満面に表した健康的な笑顔。同じ部の、同級生だと思われるブレの選手と笑いあっていた。その顔を思い出すたびに、好きだと思う。けれど寂しくて、苦しい。あの笑顔は俺に向けられたものではないのだ。そんな思いが頭を埋め尽くす。
どうしたら君に振り向いてもらえるのだろう。眠りから覚めた日は決まって、そんなことを考えてからもう一度無理矢理目を閉じる。次はいつ君に会えるのだろうか。同じことばかり、考える。



2013/09/14 12:39


▽シャンプーの匂いが変わったまこちゃん、笹真


マコちゃんがシャンプーを変えたみたい。どうして分かったのかというと、抱きついた時の匂いがいつもと違ったから。ちょっと前まではお花みたいな匂いだったのに、なぜか今日はせっけんの優しい匂いがする。そのことをなにげなく指摘すると、マコちゃんは顔を真っ赤にして挙動不審になってしまった。しどろもどろ、口ごもりながら、変えたっていうか、あの、その、なんてもごもご言い訳しているけれど。
「あー……なるほどね。うんうん。マコちゃんってばだいたーん」
「な、渚っ!」
「誰にも言わないから安心してよ。……笹部コーチによろしくね!」
こそっと耳元で囁くと、元から赤かったマコちゃんの耳たぶがりんごみたいに真っ赤に染まった。分かりやすいんだから、もう。



2013/09/13 17:59


▽そこはかとなく性的な怜真


真白く健康的なラインの脚に手を這わせ、腿の付け根ぎりぎりまで撫で上げる。手の甲を噛んで声を抑える真琴先輩が、耐えられないと言うようにふるりと睫毛を震わせる。
「あ、……っれ、い」
やわらかな皮膚に指を押し付け、薄く色が変わるのを愉しむ。申し訳程度にまとわりついたシーツをそっと取り払い、その身を隠すものを無くすと心細そうに歪められる、真琴先輩の涼やかな眉がひどく艶めかしく見えた。口元に、うっそりとした笑みを浮かべる。はかない身体をこれから開くのだと思うと、爪先から心臓に至るまで制御し難い熱が巡った。



2013/09/13 12:17


▽凛ちゃんと御子柴さんの一幕、御子江


「松岡!」
「……御子柴さん」
「そんなところで、どうした?なにか悩みでもあるのか」
「いえ……」
「そうか……。まあ、もし俺にしてほしいことがあったら、遠慮なく言えよ。俺はお前の先輩なんだからな」
「……はい。ありがとうございます」
「将来的にお前の義弟になるかもしれんしな!」
「はい……ちょっと待ってくださいどういうことですかアンタ江とどういう関係ですか」
「いやーハッハッハッ」
「答えろおおおお!!!!」



2013/09/12 17:47


▽まこちゃんに抱きつく渚くん


いつものように助走をつけて、マコちゃんの背中に思い切り抱きつく。うわっ!と驚いてはいるけれど、広い背中はそこまで揺れない。きちんと受け止めてくれたマコちゃんが、首だけで振り向いて困った顔をする。
「だから、突然飛びつくなって」
「えー。でも日課だし」
「そんなこと日課にするんじゃありません!危ないだろ、もしこけたりしたらどうするんだよ」
「その時は僕がマコちゃんを守ってあげるよ」
「どうやって?」
「こうやって!」
さっ!と虫のような動きでマコちゃんの正面側に回った。相変わらず抱きついたまま、至近距離で笑う僕にマコちゃんが呆れて首を振る。
「……その動きが、倒れながらでもできるならいいんだけどね」
じゃあ今度試してみようよ、という僕の頭をマコちゃんは割と本気で叩いた。痛かった。



2013/09/12 12:21


▽ドーナツを食べるまこちゃん、凛真


凛が買ってきてくれたドーナツを頬張りながら、つまらなそうに雑誌を眺めるその右肩に寄りかかる。ちらりとこちらを一瞥したあと、俺が寄りかかりやすいようにだろうか。凛が少しだけ身を捩った。態勢が辛かっただけかもしれない。まあ、どっちでもいいのだけれど。
「美味いか」
「ん」
もふもふとドーナツを咀嚼する。その合間に短い返事。ページを捲っていたはずの、凛の手が伸びてきて、ドーナツを取るのかと思ったら予想に反しさらわれていく俺の手。アイシングでべたべたになった指先を、凛の真っ赤な舌が舐めた。
背中が妙な感覚に粟立つ。咥内に含まれていく砂糖まみれの指を、眺めることしかできなかった。



2013/09/11 17:46


▽入部に際して、怜真


「これからよろしく、竜ヶ崎くん」
そう言って差し出された手を握り、軽く上下に揺すって応える。
「怜で構いません。こちらこそよろしくお願いします」
「分かった。それじゃあ、俺のことも真琴でいいよ」
「はい。……真琴先輩」
「う、うん。怜。……なんか、改めて言うと照れるね」
「そう、ですね。そのうち慣れるはずです。おそらく」
「……あの、怜?」
「何でしょうか、真琴先輩」
「そろそろ手、放してくれないかな」
「す、すみません!!」



2013/09/11 12:18


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