今週始まったばっかなのに。
あと5日我慢、か。
また、大きなため息が一つ。
でも今日遅いのか。
ちょっと頼んでみようかな。
制服のボタンを閉じながらぼんやり考えていると、一階から有志の声が響いてきた。
「ともー遅刻するぞー」
「はーいー」
頭を切り替えると、椅子に置いていた鞄を取り足早に部屋を出た。
「いってきます」
「気をつけてな」
「ん」
新婚カップルのような、甘いキスを玄関で。
有志の唇を味わい名残り惜しそうに離すと、満面の笑みで家を出た。
「ちわー」
「っす」
放課後になり部活へ行くといつもの光景が智希を迎えた。
1年生が体育館をモップ掛けで磨き、マネージャーが顧問と今日のメニューを相談している。
しかしそこに大谷、清野の姿はない。
3年生は引退したからだ。
今年のインターハイ、智希達の高校は全国ベスト4という快挙を成し遂げた。
準決勝で惜しくも敗れた大谷キャプテン、清野がいる3年生達はそこで引退となった。
涙の引退試合とはなったが、3年生全員がやり尽くしたいい顔をしていた。
「まだまだ上がある事を忘れるな。今年全国に行けたからって来年もお前達が行ける保証はどこにもない」
キャプテンからの言葉。
段々言葉が震えてきて。
「ありがとう、お前達とバスケが出来て幸せだった」
大谷は涙を目尻にためてそう言った。
その言葉にたくさんの部員が涙した。
顧問は泣いていた。
姫川は号泣していた。
清野はずっと下を向いていた。
佐倉は歯を食いしばり少し震えていた。
智希は一粒零れた涙を拭った。
その瞬間から智希はキャプテンとなった。
大谷にポンと肩を叩かれ引き継ぎの言葉をかけられる。
次のキャプテンを選ぶのは顧問でも部員みんなで決めるわけでもない。
現キャプテンの独断で決められる。
しかし誰もがわかっていた。
次のキャプテンはこいつしかいない、と。
インターハイで智希はMVPを取った。
「泉水智希、次のキャプテン、宜しく頼む」
「はい」
部員、顧問、マネージャーが見守る中、智希はキャプテンとなった。