思いは、口に出さないと伝わらないもので。
「あーやっぱダメかー」
有志が去ったあと、智希は体を大の字に広げながらベッドに倒れ込んだ。
カチカチと動く時計をぼんやりしながら見つめ、ここでも大きなため息が一つ。
「理由言えるかよ……クリスマスに自分の金でプレゼント渡したいなんか」
視線を天井に変え、拗ねたように口を尖らせる。
「好きな人にプレゼント渡したいのに、好きな人からもらってる小遣い使えるかよ」
呟き、今度は目を閉じた。
暗いけれど、昔の闇に比べれば全く怖くなんかない。
「でもごめん父さん…もうバイトする場所…決定…」
急な眠気に襲われ目を閉じた瞬間魔法にかけられた様に眠りについた。
これから起こる出来事なんか知るよしもなく、今はただ有志が喜ぶ姿を夢見ていた。
月曜日、いつも通りの朝がくる。
本当は有志とずっといたいけれど、そこまで我が儘をいう程我を忘れていない。
朝ご飯を食べ終え部屋で制服を着ていると、扉をノックされた。
軽く返事をするとドアが開き有志が歯磨きをしながら入って来た。
「ひょうおほふはふ」
「へ?」
口を泡立たせながらなんとも情けない。
なんとなくはわかるのだが聞き返した。
「っ……。ひょお、おほふある」
「……今日、遅くなる?」
「ん」
通じたとわかった瞬間ニコリと笑い歯磨きを再開し始めた。
本当にこの人は…。
「晩御飯いらない?」
「ふん」
「何時ぐらい?」
「ひゅーひはふひる」
10時は過ぎる…か。
「わかった。飲み?ミーティング?」
「みーひんふ」
ミーティングね。
「了解。早く口ゆすいでこいよ。垂れるぞ」
「ふん」
バタンと扉が閉められた。
はぁ。
可愛い。
爆発しそうな理性を一生懸命抑えて大きく深呼吸した。
口端から零れる歯磨き粉が口でしてくれた時のように卑猥に感じられた。