「わっ!」
智希に腕を掴まれヒョイっと持ち上げられると、ソファに座る智希の膝の上に座る体勢になった。
まずい。
この体勢は非常にまずい。
「智っ!だめ!だめだ!」
「だめじゃない」
「とっ!」
ぎゅっと後ろから抱きしめられた。
ああああ
ほんとダメだって
絶対やばい
でもでもでも
ああああ
もっときつく抱きしめてほしい。
「あ、勘弁した?」
「っ、してない!」
一瞬緩んだ有志の体に気づき後ろから肩口に顔を出すと、有志は足をバタつかせ必死にもがいた。
バタンバタンと、まるで駄々をこねている子供のようだ。
しかしこれぐらい本気に抵抗しないと、勝てないのだ。
いや、きっとこれから一生力では勝てない気がする。
「とーもー!」
「わかった」
「はっ離してくれる?」
首を後ろに回すと、まだ智希の顔は冴えずムスっとひねくれていた。
「離す、けど、直前まで言わなかった父さんはひどい」
「だっだって言ったら何か仮病でも使って来れなくするだろ」
図星だ。
「な、昼飯。昼飯一緒に食べるだけだから。な?」
「その昼飯作るの誰だよ」
「寿司取る」
「ダメ」
働いているのは有志だが、実際家計をやりくりしているのは智希なのだ。
簡単に寿司でも取ろうものなら一時間近く説教される。
「ほんとにごめん智希。直前まで黙ってたのは謝る。でも今日だけだから。お願い」