「何回も言ってるけど、お前の本業は学業だろ。それに部活もあるしバイトなんかやってる場合じゃない」
「でもっ」
「お金が足りないならお小遣増やしてやるから」
「そんなんじゃないんだってば!」
驚いた。
智希が怒鳴った。
子供扱いされたくない。
智希の本音。
でもそれを言ったら子供みたいだから、絶対言わない。
怒鳴ってしまい一瞬ハっと我にかえったが、まだ諦めない。食いつく。
「絶対部活休まないし、成績落とさないから」
「ダメだ」
「父さん!」
低く唸ると、有志はシャツ一枚のまま立ち上がり歩き始めた。
有志の腕を掴み損ねた智希はタイミングを失い右手が宙を舞う。
「なんでそんなにバイトしたいんだ」
「も、もう17だし、バイトの経験ぐらいしとかないと…」
有志は立ち止まり振り向くと、ベッドに座ったままの智希を見下ろした。
嘘をついている。
父親だ、もちろんわかる。
「大学卒業すれば嫌でも働かないといけなくなるんだ。たくさん今を満喫しなさい」
「とっ」
低く、小さく声を出すと音をたてて扉を閉め出ていった。
「くそっ…なんでこんなに…」
有志も嘘をついていた。
バイトしたいと智希が言うのなら、社会勉強のためだと簡単に許していただろう。
こんな関係になるまでは。
しかし、今は。
「バイトには女の子いるよな…接客ならさらに女の子と…話すもんな」
トボトボと階段を降りながら思いを吐き出す。
最低な父親だな、と自虐な笑みを浮かべながら。
もちろん、それだけではない。
特待で学校に入ったというのに最悪怪我や何かトラブルに合ってしまうと、退学や普通科に強制変更させられてしまう可能性もある。
智希の今までが泡となり弾ける。
実際、学校側も特待生は普通科に比べ申請を出したり規制もされている。
それと。
「なんでバイトする理由嘘つくんだよ」
何故嘘をついているのかわからない。
しかし絶対に何かを隠しているということが有志の気持ちをざわつかせる。
全て話してほしいのに。
お金が必要なら、なぜ必要なのかはっきり言ってほしいのに。
「相手にこんな求めるのって…重いのかな」
わからない。
有志は生まれてこれまでこんな想いをしたことがないから。
「はぁ…風呂入ろ」
今ではすっかり着替えを取りに行くだけになった自分の部屋に入り、ブツブツ呟きながら何度もため息をついた。