「と、とりあえず今日はご飯食べて寝て、明日ゆっくりお母さんとお話させてもらうからね」
「明日って、父さん仕事じゃん」
「あ、うん。その間智希この子見てて」
「えぇー!」
「えぇー!」
「お前が嫌がるなよ」
ペチ、っと小さな音が響く。
「っ!!痛いぃぃー!!!」
「えぇっ」
「えっ」
将太の頭てっぺんを智希の手のひらが軽く当たった、だけだった。
「うぁあぁあああパパー!」
「え、え、え、え」
「そんな泣く程殴ってねぇし!」
「痛いいいい!!」
地響きのように泣き崩れ、有志の腹に顔を埋める将太。
どう見ても今のは絶対痛くないだろう、とは思うものの、泣き叫ぶ子供の扱いに全く慣れていない有志はとりあえず将太を抱きしめた。
「っ………」
智希の喉が鳴る。
「しょ、将太。とりあえず泣きやもうな」
「あのお兄ちゃん嫌いー!」
俺もお前大嫌い。
ぐっと堪える高校生。
「嫌いって……将太、ダメだぞ」
「……へ?」
しがみつく将太を引き離し、鼻水と涙で濡れる顔をじっと見つめる。
先程の穏やかな顔は消え真剣な顔で将太を覗き込んだ。
「簡単に嫌いなんて言葉使ったら敵を増やすだけだ」
やべ、俺心の中でこいつ大嫌いって言っちゃった…。
反省する高校生。
「はい。ごめんなさい」
グスン、っと鼻をすすり小さな声で謝った。
ずっと笑顔だった有志が真剣な顔になったからだろう、将太は背筋が凍りピンっと直立不動になった。
有志は再び笑顔に戻り、優しく将太の頭を撫でる。