「智、ほんと大丈夫か?」
「大丈夫。ちょっと急な事が起きて頭混乱してるだけだから」
「そっか。でも顔色悪いし、部屋戻っとく?」
「ん、大丈夫」
「パパーご飯ー」
「ん、ちょっと待ってな」
有志の足に絡みついてねだる将太。
胸元あたりまである身長がフラフラと揺れ、甘えるようにきつく抱きつく。
智希はその姿をじっと見つめ、一生懸命自分に言い聞かせていた。
落ち着け。
まだこいつが父さんの子供って決まったわけじゃない。
智希は流れ出る汗をTシャツの裾で拭い深呼吸すると、空気を変えようとわざと明るく大きな声を出した。
「じゃ、ご飯にしよっか。今日はカレーだ」
「やったー!」
「お兄ちゃんがね、いつもご飯作ってくれるんだよ」
思わず有志の「お兄ちゃん」という発言にピクリと眉を動かしたが、将太の頭を撫でて自慢するように言うその姿を見たら少し気持ちは和らいだ。
しかし将太はあまり良い顔はせず、じっと智希を見つめる。
「この人、僕のお兄ちゃんなの?」
「あー…」
智希を指差し、有志に問う少年。
小麦色に焼けた素肌からは若さが溢れ輝いている。
有志は少しバツが悪そうに咳払いすると、智希をチラリと一瞬見たあとすぐしゃがんで将太と同じ目線になった。
「どうだろうね、将太が本当におじさんの子供ならそうだよ」
「本当って言ってるじゃん!写真だって!証拠だって!」
「でも、お母さんにちゃんと聞かないと」
「ママがそうだって言ったの!」
有志は思わぬ所で少し……、感動していた。
これが…一般的な子供か…!
智希は一度も駄々をこねたりワガママ言った事なかったからなぁ。
何言っても素直に聞いてくれたし、何も言わなくても進んで色々してくれたからなぁ。
智希可愛かったなぁ…。
「……父さん?」
「パパ?」
「へ、あ、あ、うん。ごめんちょっと考え事してた」
はっと我に返ると、智希は腰に手を当て不思議そうな目で有志を見下ろし、将太は首を傾げて見上げていた。
でもこの子が本当に自分の子かどうかわからないなんて…。
なんて最低な大人なんだ…。
沙希に怒られそう…。