「俺が今17で、あいつが9歳……計算的には父さんと別れてすぐ生まれたってこと?」
「うん…そうだな」
「でも………」
でも。
その先が言えない。
有志がその女性と体の関係があった、と、智希は知っているからだ。
初めて有志を抱いた時、酔っ払った有志が話してくれた、人生二人目の女性。
智希の母沙希が死んで、幼い智希に優しい母親をと思い半年ほど付き合っていた女性がいた。
春日部葉子。
年齢は有志より3つ上で、会社の前にあった弁当屋で働いていた。
ショートカットで清潔感が漂い、常に笑顔を絶やさない癒し系美人。
有志の会社でも彼女に好意を持っている人間は何人かいて、彼女に会うため毎日弁当を買いに通っている者もいた。
有志も、その弁当屋に通う人物ではあったが、春日部葉子に好意を持っているから通っていたわけではなかった。
単純に近くの弁当屋に昼ごはんを買いに行っていただけ、である。まぁ、美味しかったから通っていたのだが。
惚れたのは春日部葉子のほう。
よく買いに来る有志の、お釣りを渡した時の会釈した笑顔が心に残り、思い切って声をかけたのである。
初めは驚いた有志だが、確かに意識をすれば彼女の笑顔は素敵だったし、何より家庭的そうだった。
智希に母親を。
智希が寂しい思いをしないように。
実際、本当に春日部葉子を好きだったか、と聞かれれば少し考える。
ひどい男だと思われるだろうが、今も昔も一番は智希なわけで。
「で、自然消滅したんだっけ?」
「ん…俺から連絡しないようになって」
弁当屋にも、行かないようになった。
気が付けばその弁当屋は閉店し、二ヶ月もしないうちに新しいカフェができていた。
今思えば、恨まれても仕方ないことしたなぁ、と思い出す。
「で、どうなんだよ」
「なにが?」
「ちゃんとしてたの?」
「なにを?」
「ゴム。避妊」
「ゴッ…ヒっ!」
相変わらずこの手の話は苦手だな…
顔を真っ赤にして智希を見上げる有志に、同情したのかポンっと肩を叩きため息をついた。
「……これからどうすんの?」
「とりあえず…葉子さんと連絡取ってみるよ」
「警察には?」
「なんだか複雑そうだから少し様子見る」