「よし、開けるぞ。父さん危ないから中入っとけって」
「大丈夫!」
なんだか、情けない。
智希と有志はゴクリと生唾を飲み込むと、2重にロックされた玄関の鍵を一つずつ開けてゆっくり外を覗き込んだ。
「…………あれ?」
「なに?なに?どした??」
智希の広い背中で外が見えない。
有志も体を乗り出し玄関のドアから顔を出すと、そこには一瞬誰もいないように見えた。
しかしすぐ視線を下に向けると、黒いキャップを被った男の子が立っていた。
子供?
少年はじっと智希を見つめていたが、有志を見つけた途端大きな目がさらに大きく開いた。
「っぁ……」
微かに漏れた声を聞き取ることができなくて、智希が聞き返そうとしゃがんだ。
その瞬間、器用に智希の体をスルリと抜け不思議そうに少年を見つめている有志の元へ駆け込んだ。
「……パパ!」
「あ?」
「ん?…えぇええええ」
嬉しそうに有志に飛びついた少年は満面の笑みを浮かべ「パパ」とはっきり、はっきり有志の目を見て叫んだ。
驚いて近所に鳴り響く程奇声を上げたのは、目をまん丸にした有志だった。
「お前、名前は?」
「………」
「無視すんなよ」
「………」
とりあえず少年を家に入れると、お茶を汲みに行った有志を除いて智希と少年がソファに座っていた。
流しっぱなしにしていたテレビはいつしか消えていて、扇風機の音が無常に響いている。
あんなに満面の笑みを浮かべていたというのに、少年は有志がいなくなった途端全く笑わなくなった。
礼儀正しくソファに座るけれど、智希の問いかけに一切答えない。
智希は苛立ちを抑えれなかった。
パパってなんだよ、パパって。
「はい、麦茶だけど飲むかい?」
「うん!」
有志がリビングに戻ってくると、再び満面の笑みで首を縦に振る少年。
さらに不機嫌になる智希。
有志もソファに座り麦茶の入ったコップを少年に渡すと、ふぅとため息を付きながら智希を見た。
じーっと有志を見ている。
う……。
睨まれている。
そう感じた有志はいたたまれなくなり、思わず逃げるように視線を反らしゴクゴク喉を鳴らしてお茶を飲む少年に話しかけた。