「明日から暇だー」
「宿題と部活があるだろ。あ、こら」
智希はゴロンと有志の膝上に寝転ぶと、甘える子猫のようにスリスリと頬を有志の膝に押し付けた。
「俺も早く働きたい」
「今しか出来ない学生を楽しみなさい。ほら、料理の途中だろ」
優しく智希の頭を撫で微笑むと、まだ若干不機嫌な息子は重い腰を上げ立ち上がった。
自分よりも大きくなった息子の背中を見つめながら有志はソファにもたれかかった。
可愛い。
そう思いながら喉を鳴らしたのは有志のほう。
昨日より今日のほうが愛してる。
そして、きっと明日はさらに愛している。
怖いぐらいの幸福感。
料理を再開する包丁の音を聞きながら有志は微笑み再びテレビに目を向けた。
『ピンポン』
智希が台所へ戻ってから少しして家のチャイムが鳴った。
誰だろう。小さく呟きながら有志が立ち上がる。
智希も気づいているようだったが、有志が出てくれるだろうと気にせず包丁の手を進めた。
「はい」
『………』
インターフォンをのぞき込む。
声を出すが向こうから声は聞こえないし、画面に誰も映っていない。
聞こえるのは微かな雑音と風の音。
「…?どちら様ですか?」
『………』
おかしい、と眉間にシワを寄せていると、再び智希がエプロンで手を拭きながらやってきた。
「なに、イタズラ?」
「わかんない。ちょっと出てくる」
「いいよ、俺行く」
「でも…」
「変な奴とかだったらどうすんの。俺が行くから」
どうやったらこの子はここまで男らしくなったのだろうか。
自分の頼りなさに恥ずかしさを覚えるぐらいだ。
しかし守られてばかりではやはり父親として情けないから、有志も玄関へ向かう。