「ねぇママ、この人はだれ?」
「その写真、どこで見つけたの?」
「押し入れの奥にあった」
「そう…。この人はね、ママの大切だった人よ」
「……ママ?」
「なぁに?」
「うぅん、なんでもない」
「部活はいつから?」
「来週。今週はずっと父さんと一緒にいられる」
「俺は仕事」
いつも通りの日曜日夕方。
時計を見れば18時になっていた。
うっすらベランダから見える外の色は深くなり始めている。
夕食を作るため台所に立つ智希と、テレビのニュースになんとなく目を向けている有志。
陽は落ち涼しくなるとはいえまだ蒸し暑い。
クーラーと扇風機の二刀流で風力を作っている。
「会社の盆休みはいつから?」
「11日から16日まで」
「えー合宿と重なってんじゃん!」
包丁の手を止め膨れっ面になりながら智希がリビングにやってきた。
黒のエプロンで手を拭きながら有志が座るソファにドカッと座る。
「夏は毎年だから仕方ないだろ。インハイもあるんだし、盆休み時期まで練習見てくれる監督に感謝しないと」
「折角の休みなのに…」
クスリと有志の吐息が漏れる。
頭を垂れて拗ねる大きな息子を愛おしい目で見つめた。
愛おしい。
誰よりも。
学生達は夏休み真っ只中。
智希も部活があるものの、通常より時間はある。
勉強をしなくてはいけないが。
日本の働くサラリーマンは長期休みなんて簡単に取れるわけもなく、ひたすら毎日働いているわけで。