「ちはっす」
「「「おはようございます!」」」
一斉に声が智希に向かってかけられ、少し異様な程の瞳の数が智希を見つめる。
元気の良い新入部員がまるでスターが来たと言わんばかりにざわつき始めたのだが、すぐ監督によって引き戻された。
「誰が休憩していいって言った?今ドリブルを止めた者は残り500追加だ」
監督の怒号が聞こえ1年は顔色を悪くさせながら体育館の隅っこで練習を始める。
急に増えた部員数にこの体育館は正直合ってはいない。
毎年新入部員は隅っこで基礎練習なのだが、隅っこなどではなく半分を使って練習をしていた。
「おはようございます。あれ、ケガってどこですか?」
メニューを一通り終えた佐倉が汗を拭きながら智希の元にやってきた。
ケガをしたと聞いたので心配して見に来たものの、包帯もガーゼも貼っていない。
声をかけられた智希は少し顔を赤くさせながら髪の毛をかき上げこめかみを見せた。
「……ここ」
「え、ここ?!絆創膏?!」
「うっせ!俺もいらないって言ったんだけどみんな心配しすぎなんだよ!」
「箱入り息子だ」
「佐倉!」
「おい泉水、佐倉。おしゃべりしてる暇あったらグラウンド100周してくるか?」
「すみませんでした!アップしてきます!」
監督のドスの効いた声にひっと喉を鳴らし、慌てて準備運動を始める。
佐倉は申し訳なさそうに口パクでスミマセンと言うと、再び練習に戻った。
言うべきか、否か。
きつい練習も終わり自転車をこぎながら新しい保健医のことを思い出す。
東條に会ったことは智希の胸の中でモヤモヤと残っていた。
正直、命の恩人だ。
一度目は安い挑発に乗りかけた場面で、二度目は頭を打ち意識がなくなった場面で。
あの旅行で、もし東條がいなかったら今頃自分は…。
思わず身震いした。
簡単だ。
偶然今期から東條がうちの学校の保健医になった、と告げればいい。
しかしあの、東條の宣戦布告とも言える言葉が気になり告げるべきかどうかうだうだと悩んでいる。
きっと父さんの事だから、東條さんがうちの学校来たって言ったら家に呼ぼうって言うだろうしな…
いや、命の恩人なんだから、呼ぶべきなんだけど…
うーん、うーん、と、薄暗い外をゆっくり自転車でこぐ。