(また、今年も父さんは一人で母さんのお墓に行って謝り続けるのかな)
ぎゅうっと胸の奥が苦しくなる。
でも父さんはきっと、俺より苦しいんだ。
安堵するつもりの有志のぬくもりが、この日はひどく冷たく感じた。
「おはよー」
「おはよ」
次の日はお互い何事もなかったように朝の支度に急いだ。
愛妻ならぬ、愛息弁当を会社鞄に大事に入れる。
「そうだ、三者面談の紙、渡されてるんだった」
「あー、もうそういうのは早く出しなさい」
「忘れてたの!あ、時間やべ」
とりあえずテーブルの上置いとく!と叫んで、玄関に向かう智希。
続いて有志も歯ブラシを口にくわえたまま玄関まで見送りに行く。
今日は口に歯ブラシがあるから頬に軽くキスを。
「歯磨き粉めっちゃついてるよ」
「いふぉいでひははら」
「はいはい急いできたからね。じゃ、いってきます」
「ひっへらっはーい」
なんとも緩い朝の恒例行事を終えると、慌ただしく智希は学校へと向かった。
バタン、と閉じられる扉の音。
有志は大きくため息をつきながら洗面台へ戻り身支度を急いだ。
新入部員を入れての二日目はさらに疲れた。
智希を崇拝する者もいれば、下克上と燃える者もいる。
しかし一番目立って印象を悪くしているのは、新女子マネージャー達だった。
「まじありえないあの子ら!泉水くんがいないからって帰ったわよ!」
3年女子マネの一人、生野佳花は、ストップウォッチを握りしめながら震えていた。
肩まで伸びた髪の毛をお団子にしてくくり、ジャージから見える手足は白く細長い。
全身を震わせ相談者の佐倉に今にも飛びかかっていきそうだった。
「そういや泉水さんいないっすね」
「体育の時顔に擦り傷いっちゃって、問題ないらしいけど念のため部活前に保健室行くからちょっと遅れるって。今日帰ったバカ女共ざまあ!泉水くんはちゃんときます!ざまあ!」
「生野先輩ちょっと落ち着いて」
「これが落ち着いてられるの佐倉くん?!!さっき監督にチクったら、最近はぁ色々あってぇ教師もぉ生徒に簡単に怒れねぇんだようぅだって!」
「なにそれもしかして監督のマネ?!超似てる!!」
「でしょでしょ姫っち!姫っちからもあのバカ女達怒ってよ」
「俺怒るの苦手なんで」
「ってか姫川が怒っても舐められそうだよな」
「佐倉それはひどい!!」
わいのわいのと騒がしい体育館。
今後の問題点を突きつけられていた部員達だが、智希にも重大な事件が起きていた。