ニッコリ笑いながらも黒く影を落とす息子に父親は気づかない。
息子も、その時父親がナニカに胸を押しつぶされそうになっていたことにも、気づかなかった。
「なぁ智希」
「ん?」
「今年も…沙希の、一緒にお母さんのお墓参りに行こうな」
「うん」
智希のベッドで、当たり前となった二人並び抱きつきながら寝る光景。
今日は早いうちに布団に入ったのでまで目がさえている。
母は俺が物心つく前に事故で亡くなった。
母は小学生の頃両親と弟を一度に亡くしているらしく、親戚もおらず天涯孤独だったらしい。
母が亡くなった時、誰もが骨は泉水家の墓に入れると思っていた。
だけど父さんはしなかった。
周りの反対を押し切り、半ば強引に九州にある母の両親と弟が眠る墓に納めることになった。
『お母さんが眠る場所はここって、お母さんが亡くなる前から約束してたんだよ』
10歳の夏休み、二人で行った母のお墓参りの時こっそり教えてくれた。
10歳の俺には意味がよくわからなかったけれど、きっと母は遺言として生前にそうしたいと言っていたのだと思う。
でも実家の墓に入りたがっていたと言えば母の評判は悪くなる。
父さんはきっと、それが耐えられなかったんだと思う。
そして母を実家の九州で眠らせる事にした。
そう思えるようになったのは、ある程度俺が大人になった時だった。
「今年もお盆は合宿とかで予定会わないだろうから、9月の連休に行こうか」
「うん。監督にもその事は言っておくよ。たぶん昨年同様気にするなって言ってくれると思う」
「ごめんな、お前キャプテンなのに」
「俺だって母さんが大事だもん」
「ありがと」
昨年、有志と智希がこういう関係になって初めて墓参りに行った。
毎年日帰りなのだが、今年はゆっくり一泊しようという有志の提案で、近所の旅館に泊まることになった。
明け方、ふと目が覚めると隣に有志がいない。
冷たくなってしまっている布団を手で触りながら時計を見ると午前4時。
トイレにしては長すぎると思い探しに行こうかと思った時、扉が開いた。
有志が帰ってきた。
しかし智希は帰ってきた有志に声をかける事ができなかった。
有志は昼に墓参りした時とは違う喪服を着ていた。
膝は土で汚れていた。