「まじで。これ入部希望3ケタいってね?」
「あ。あいつ見たことある。雑誌で見たわ。まじか、普通科で来たのかよ」
「今年は女マネも凄いな」
「完璧泉水さんファンじゃん。バスケのルールとか知ってんのかよ」
「そういやどっかの部活が女マネが全然いないって怒ってたわ」
専ら部員達は入部希望者に興奮を抑えられないでいた。
始まったばかりの部活はほぼ自己紹介と基礎連で終わった。
彩りある食卓で、その料理を作った男の顔は曇っている。
「はぁ」
「どうしたんだ智希。今日そんな疲れた?」
授業自体は全然疲れなかった。
クラスのメンバーは変わらないし、授業も急に早くなったりしない。
問題は部活だ。
「なんていうか、見えないプレッシャーが」
「でも先輩が引退してからずっと智希キャプテンなんだろ?そんな疲れるもん?」
「新入部員50名と女マネ20人。合計70人相手してみる?」
「にゃっ…!」
噛んだ。
茶碗がカタン、と音を立ててテーブルに転がる。
中身はあまり入っていなかったおかげでこぼれ落ちる事はなかったが、有志は慌てて茶碗を拾いお茶を一気に飲み干す。
「私立とは言え少子化だろ?そんな生徒いたんだ」
「ちょっとうちの高校バカにしてない?」
してないしてない、と苦笑しながらお箸を持ち直す有志。
雑誌やらテレビやらで大きく取り上げられるようになった智希は、その容姿に加え謙虚な姿勢で全国からファンが集まるようになった。
出待ちや、最近では町中で声をかけられる時もある。
すでに非公式でファンクラブが設立されたと風の噂で聞いたが、当人は聞かなかったことにしている。
「今そんなバスケブームなの?」
きょとん、と箸を進める有志を見つめ、その癒しのオーラに大きな溜め息をついた。
あなたの息子が注目されているからですよ。
「父さん、今日は早く寝たい…」
「え、え。あ、その、今日はできれば何も…」
「一緒に寝てくれるだけでいいから」
「じゃあご飯食べたらすぐお風呂入ってくるな」
まぁ…大丈夫だと思うけど。
こう見えて父さんかなり嫉妬するからな。
変な女に付きまとわれて父さんを不安な目にあわせないよう気をつけないと。