ざわつく道のりで、智希は伏し目がちに呟いた。
「昨日、母親の命日だったんだ」
「君は天国で、怒ってるかな」
有志の頬を流れる涙を拭う者は誰もいない。
教室につくと見慣れた顔並み達に挨拶し、座席表を確認し席に座った。
友達の真藤があくびをしながら智希の席にやってきた。
対して話すこともないのか智希の前の席に座ると、再びあくびをしながらなんとなく質問をする。
「もう3年生かー。智はやっぱ大学推薦?」
「わからん」
「もう来てんだろ、スカウト」
「んー」
隠しているのか話すのが面倒なのか。
言葉を濁す智希に話を聞いていた周り全員が少し苛立ちを覚えた。
「今年も凄いらしいじゃん、バスケ部の入部希望」
「らしいな」
「入部希望3ケタってまじ?」
「それは流石にガセだろ」
「でも今年のうちの倍率凄かったらしいぜ。全部智希」
「なわけないじゃん」
昨年夏のインターハイでベスト4という成績をおさめたこの高校は名門校となった。
もちろん大谷や清野、その他3年、2年、1年の努力の結果である。
しかしやはり、この男がいたからこその、ベスト4なのだ。
MVPを取った男が、このバスケ部のキャプテン。
部活に行くとすぐ監督に呼ばれた。
「今年の特待生は一人だ」
「少ないですね」
「お前のおかげで獲得したいと思っていた奴等がこぞってうちに来たいと言ってくれたからな」
「ま、じ…っスか」
「普通科でもお前とバスケをしたいとこの高校を選んだ後輩がたくさんいる。しっかりやれよ」
「努力します」