暖かい。
手袋よりも、カイロよりも、何よりも暖かい。
あんなに時間をかけてアーチを歩いたとうのにあっという間だった。
あと10キロぐらい歩きたかった、って言ったら体力持たないよ、って言われた。
「この後なんか体力温存しとかなきゃいけないことでもあるの?」
「っ!!」
人が少なくなるころにはもう手が離れていて、一気に冷たくなった手に手袋をはめた。
真っ赤になる父さんを横目にニヤニヤと笑うと、突然早歩きを始める。
「ねぇ、この後なにするの?体力使うことするの?」
「家!!帰らないとダメだろ!帰るのに体力使うだろ!」
「電車乗ってすぐじゃん」
「もうすぐ40だと電車乗るのも体力使うの!」
「毎日仕事で電車使ってんじゃん」
「っっっ」
唸り声を上げてスタスタと前を歩く父さん。
簡単に追いつけるんだけど、わざと追いつかないで後ろを歩く。
家を出る前にこっそりリビングのテーブルに置いてきた父さんへのプレゼント。
最初に家に入ってもらって、見つけてもらいたい。
見つけてもらって、中を見てもらって、喜んでもらって、そのあとは。
ゆっくり歩いて体力温存、しとかないとね。
END