「いえ、違うんです!逆です!!素敵すぎて…感動してました」
父さんはそう言いながら、涙を一粒こぼした。
「えぇっ!そんなっ!涙までっ」
「………父さん」
涙を流して感動したと言う父さんを見た絵描きさんは、嬉しいのか鼻を人差し指でかきながら笑顔で対応した。
俺はそんな父さんを見て、涙が出そうだった。
他人に俺たちはこんな風に見えている。
笑顔で、楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。
そう感じたから、涙が出たんだろ?
「本当にありがとうございました。リビングのよく見えるところに飾らせてもらいますね」
「こちらこそ、素敵な親子を描けてよかったです。素敵なお父さんだね、今以上に親孝行するんだよ」
「はい、そのつもりです」
お金を払って、厚紙の封筒に入れてもらった似顔絵を胸に小屋を出た。
外に出るとすっかり日も落ちていた。
「いいぐらいだね。イルミネーション綺麗だろうな」
「うん」
元気がないわけじゃないけど、少しアンニュイな感じだ。
商店街を抜けて少しいくと、青とピンクと黄色に飾られた木のアーチが見えた。
もう人だかりが凄いことになってる。
「はぐれないように、ね」
「あ、あぁ」
ノロノロと歩きながらアーチヘ向かい空を見上げる。
真っ暗な空はキンと耳が痛くなるぐらい冷えていて、寒いのになんだか心地よかった。
数メートルを10分ほどかけて歩くと、やっとアーチが見えてきた。
30mほどアーチは続いていて、カップルや家族連れが上を見上げながらゆっくり歩いている。
俺たちもやっとアーチをくぐり、その光輝く世界に足を踏み入れた。
「っ!と、智!」
「大丈夫。こんな人いっぱいだし、みんな上見てるよ」
数メートル歩いたところで、そっと父さんの手を掴み引き寄せた。
自分の体に密着させ、離そうとする手をきつく握りしめる。
父さんは映画館の時同様、観念してすぐ握り返してくれた。