冬の深さは
05
「いえ、違うんです!逆です!!素敵すぎて…感動してました」

父さんはそう言いながら、涙を一粒こぼした。

「えぇっ!そんなっ!涙までっ」

「………父さん」

涙を流して感動したと言う父さんを見た絵描きさんは、嬉しいのか鼻を人差し指でかきながら笑顔で対応した。

俺はそんな父さんを見て、涙が出そうだった。

他人に俺たちはこんな風に見えている。

笑顔で、楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで。


そう感じたから、涙が出たんだろ?


「本当にありがとうございました。リビングのよく見えるところに飾らせてもらいますね」

「こちらこそ、素敵な親子を描けてよかったです。素敵なお父さんだね、今以上に親孝行するんだよ」

「はい、そのつもりです」

お金を払って、厚紙の封筒に入れてもらった似顔絵を胸に小屋を出た。


外に出るとすっかり日も落ちていた。

「いいぐらいだね。イルミネーション綺麗だろうな」

「うん」

元気がないわけじゃないけど、少しアンニュイな感じだ。



商店街を抜けて少しいくと、青とピンクと黄色に飾られた木のアーチが見えた。

もう人だかりが凄いことになってる。

「はぐれないように、ね」

「あ、あぁ」

ノロノロと歩きながらアーチヘ向かい空を見上げる。

真っ暗な空はキンと耳が痛くなるぐらい冷えていて、寒いのになんだか心地よかった。

数メートルを10分ほどかけて歩くと、やっとアーチが見えてきた。
30mほどアーチは続いていて、カップルや家族連れが上を見上げながらゆっくり歩いている。
俺たちもやっとアーチをくぐり、その光輝く世界に足を踏み入れた。

「っ!と、智!」

「大丈夫。こんな人いっぱいだし、みんな上見てるよ」

数メートル歩いたところで、そっと父さんの手を掴み引き寄せた。
自分の体に密着させ、離そうとする手をきつく握りしめる。

父さんは映画館の時同様、観念してすぐ握り返してくれた。
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