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09
場所も高校から徒歩15分ほどのところにあり、部活終わりにすぐ入れる。

コックは佐倉の叔母が担当している。腕も本場イタリアで修行しただけあって本格的だ。
3人のバイトを雇っていて、忙しい夜の時間や土日は佐倉も小遣い稼ぎで手伝うらしい。
そんなに大きくはないが、流石おいしいとあって店が出来てまだ2年足らずだが最近客が増えてきているらしい。

ある日の部活終わり、智希が部室でバイトを探していると軽く言ったことを覚えていて、うちでバイトしないかと佐倉が持ち替けた。

毎日は入れなくても、週一で、部活が早く終わる木曜のみウェイターをすることになった。

有志につく嘘をまだ考えていないのだが。

「まぁ木曜だけ遅くまで勉強のセミナー入るって言えばいいかな。俺も来年受験だし」

「え?なんか言いました?」

「なんも。なんか悪いな、色々してもらって」

「いえ全然。でも気をつけてくださいね、バイトの子みんな女だし、客層も女性ばっかだから」

「頑張る」

女は苦手なんだけどな。
でも我が侭言ってられないし。

はぁ、と大きく溜息をついたところでタイミング良く顧問の声が響いた。



「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様。智希君覚え早いから助かるわー。じゃあまた、木曜日にね」

「はい」

商店街を抜けた場所に佐倉の叔母が経営するレストランはあった。
一軒家が並ぶ住宅街に並んで建っている為、初めて来る人は迷うだろう。

外観は白壁に覆われた近代的で清潔な感じ。
昼はオープンカフェに、そして夜になると中のみのイタリア料理屋に変わる。

ラストオーダーも全て終わったというのに中には満席に近い客が座っていた。

そんな忙しい中、店長で佐倉の叔母である佐倉麻里子が智希を見送る為ドアの前まで来ていた。
甥である佐倉照も隣にいるというのにまるで見えていないようだ。

智希に笑顔を振り撒きちゃっかり手を握っている。

「すみません色々と慣れてなくて」

「ぜんっぜん!すっごく頑張ってくれてたし、笑顔も素敵だから奥様達メロメロだったわよ〜」

「はぁ」

「メロメロは麻里さんだろ」

「なんか言った?」

「なんも」

うんざりした顔で佐倉がそう言うと、引き始めていた智希の手をやっと離しまた満面の笑み。
店長に気に入られたようだ。

もう一度お疲れ様でしたと会釈すると、ザワつく店内にいたバイトの女の子にも一礼し、歩きだす。

疲れた。
接客がこんなに辛いとは。


「でもやっぱ泉水さん飲み込み早いですよ」

駅までの暗くなった商店街を佐倉と歩く。
いつもは自転車通学の智希だが、今日は電車できた。

「いやー全然。テンパってばっかだった」

「そうですか?要領がいいから臨機応変に対応出来てましたよ」

「そ?サンキュ」

ニコリと笑う智希を見上げると、佐倉の胸が一瞬キュンと締め付けられた。

「泉水さん、あんま謙遜しなくなりましたよね」

「ん?」

下を向き閑散とした道を歩く佐倉に目を向けると、嬉しそうな、だけど辛そうな表情をしていた。

「前の泉水さんならもっと自分を馬鹿にしてましたよ」

「あーそうかも…な」

沈黙。
二人が歩くスニーカーの音だけが響いた。
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