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智希は視線を前に戻し、こちらも少し複雑そうな表情をしている。

「やっぱ、お父さんのおかげ…ですか」

「そうかもね」

柔らかくニコリと笑うと、辛そうな顔をしていた佐倉が微笑んだ。

「よかったですね」

「ん」

智希は少し照れて鼻をすすると、もう一度柔らかく微笑んだ。

確かに、智希は変わった。
自分の幸せを喜べるようになった。

「じゃ、お疲れ」

「お疲れ様でした。また明日」

駅に着き改札をくぐるとすぐ別れた。
軽く手を挙げ首を傾ける。

あー疲れたー

首をポキポキ鳴らし、電車を待ちながら壁にもたれた。
普段使わない表情の筋肉を使ったせいか、少々顔が強張っている。

制服のズボンに入れていた携帯を取り出し時計を見ると、22時15分だった。

「やべ、父さん帰ってるかな…」

帰っていたらどうしようか、なんて嘘をつこうか。

「友達とご飯食べに行ってたって言えばいいか…」

電車の光が見え、帰れると安堵しあまりの疲労に大きなあくびがでた。

それにしても。

「悪いことしてるわけじゃないのに嘘つくのって結構精神的にクるな…」

ボソっと独り言を呟き、人込みに紛れながら電車に乗った。



家に帰ると有志はまだ帰っていなかった。
玄関でほっとため息をつき明かりをつける。

「急いで着替えないと」

スニーカーを脱いで玄関の端に寄せると、階段を駆け登り部屋に入る。
鞄を置いて制服を脱いでいると、バイブにしていた携帯がズボンの中で震えた。

ベッドの上に置いていたグレーのトレーナーを取りボサっと着ると、ズボンを脱ぎながら携帯を取り出す。

「父さんからだ」

チカチカと光るディスプレイが消え、未読とされたメールを開いた。

「あと15分…か。会社出たのか」

部屋にある大きな時計を見ると22時30分を回っていた。

同じくベッドに置いていたズボンを取り足を通すと、有志を迎えるべく部屋を出た。

リビングに降り電気を付けると、とくにすることもないのでテレビをつけた。
恋愛ドラマが智希の視線に入ってくるけれど、頭には入ってこない。

ちょうどドラマがCMに差し掛かった所で、玄関の音がカチャリと響いた。

帰って来た。

「ただいまー」

「おかえりー」

すぐにテレビの電源を切り立ち上がる。
有志は一旦自室に鞄を置くと、すぐリビングに戻りひょこっとドアの隙間から顔を出した。

「智希ーご飯食べたー?」

「あ、うん」

まかないでパスタを頂いた。

「父さんは?」

黙りながらネクタイを緩めている。

「食べてないの?なんか作るよ」

「ありがとー。お茶漬けでいいー」

「ん」

その言葉待ってましたと言わんばかりに即答し、ニコニコ笑いながら顔を引っ込めた。

智希はその笑顔にひと笑いすると、ゆっくり立ち上がり台所へ向かった。

あぁ、癒される。
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