「申請して予約入ってなかったら入れるんだ。いいなー予約しよっか」
「二人で入るのか?」
「他に誰と入るんだよ」
眉を曲げて笑う智希をチラリと見上げながら、やっと来たエレベーターに乗り込んだ。
1階のボタンを押し、エレベーター内にも貼ってある『露天風呂貸し切り早い者勝ち!』に目をやる。
「あ、でも30分だけかー」
180度パノラマの露天風呂は誰が見ても絶景で、3人入ってちょうどぐらいの大きさはどこか風情がある。
智希は隣で俄然テンションが上がっているのだが、今ひとつ有志は盛り上がっていない。
エレベーターが降りる14階から1階までの時間、有志に入ろうと誘ったのだが結局OKは出してくれなかった。
「なんでー入ろうよーすげー綺麗だったじゃん」
フロントへ行き鍵を渡すと、コンシェルジュに出迎えられホテルを出る。
肌寒い。
太陽も沈み先ほどよりさらに寒く感じられる。
「だって…露天風呂とか」
ホテルを出てすぐ右へ曲がり横断歩道を渡ろうとしたら赤になった。
はぁ、とため息を付きながら足を止める。
「もしかして、なんかエロい事考えてる?」
「っ…!!」
ボッっと、有志の顔が一気に赤く染まった。
智希の顔が見れないのかポケットに手をつっこみ視線を地面に泳がせてしまう。
「やーらーしー」
「ちがっ!だっ、ちっ、違わない、けっど…!絶対なんかするだろ!」
「しないかもしれないじゃん」
「今日ホテル付いてすぐナンカしただろ!」
「でも意識しちゃうってことは、ちょっとは期待してんじゃないの?」
「してない!」
「あ、青」
「っっっっ!!!」
信号が青になりスタスタと歩いていく智希を後ろから唸りながら睨む。
智希はその視線に気づいていたのか横断歩道の半分程でクルリと回転し有志に軽く微笑んだ。
「ほら、早く。赤になるよ」
差し出される左手。
まだ幼さの残る優しい笑顔。
自分に向けられている、愛情。
無言で足早に近づいた。
差し出された左手に自分の右手を添えて温もりを確かめながら握りしめる。
息ができない程、苦しい。