「あの、有給を取って息子と北海道に行こうと思いまして。できれば二日間お休み貰いたいです」
「仕事が問題ないのであれば行って来い」
「ありがとうございます」
「泉水は滅多に有給を取らないから経理の人も心配してたぞ。取ったとしても、智希君の試合とか授業参観だろ」
「まぁそうですね…」
「ずっと頑張ってくれてるからな。親子旅行、楽しんでこいよ」
「ありがとうございます!」
こうして有志は有給休暇を貰い、無事北海道へ行く事ができた。
有志と智希が旅行に行ったことがあるのは、智希が小学生の頃に2回だけだ。
もちろんその頃はお互いその感情に気づいていなかったので本当の家族旅行。
有志はまだ安月給の若いうちから智希を育てなければならなかったし、智希もそんな有志を見てお金のかかることはしたくないと幼心に思っていた。
しかし今回の旅行は二人にとって初めて恋人との旅行になるわけで。
「なぁ父さん。旅行中有志って呼んでいい?」
「だっだめ!」
「えーなんでー」
「恥ずかしい」
「いいじゃん。4日間だけだし。ね?ね?」
「だめ」
「なんでー」
「ほ、ほら!飛行機が飛ぶぞ!」
隣でブーブーと機嫌を損ねる智希を強引に振りほどいて、飛行機が飛び立つ瞬間を窓から見ていた。
智希に有志と呼ばれたら絶対赤面する。
想像しただけで顔を赤らめ頭から湯気を出していると、気づいたのか智希はニヤニヤと顔を緩ませながら有志の手を握った。
「なっ!!」
「いいじゃん。北海道では俺達が親子って知ってる人いないんだからさ。ね」
機体が揺れ飛び立つ瞬間の中智希は有志の耳元でボソっと囁いた。
とても卑猥な声と体温だ。
「で、でも男同士だし」
「今時それほど珍しくもないって」
「そうなの?」
「まぁ見られるだろうけど、悪い事してるんじゃないんだからさ」
「…うん」
本当は有志も智希と手を繋いで歩きたかった。
自慢したかった。