きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
子供は、号泣しながらレウとの別れを拒んだ。
孤児院の院長が、できるならば引き取ってもらいたいものだと困り果てながら子供を連れて行くのをレウは大して何の感情も持たずに見ていた。ほんの少し、今の自分に違和感を抱えていたけれど。

ただその違和感は、レウにとって大したものではなかった。本当に小さな小さな粒子程度の何かが生まれた程度のものだったのだ。
だから、レウはずっと後になってからしか、この粒子は、子供との別離を悲しむ気持ちだったのだと気づかない。


子供を孤児院へと置いてきたあとの任務は、レウにとってはあまりにも物足りなかった。
AKUMAの数が少なかったことに加えて、どれもがレベル1と、手ごたえが無かったからだ。
教団にくれば、AKUMAをたくさん狩ることができるという甘言に惑わされてついてきたレウにとっては、今すぐにでも抜けて、自分の好き放題AKUMAを狩りに行きたいと思わせるほどの任務だ。しかしレウは、面倒なことをすれば、余計人間との接触が増えるだけであるとわかっているので、教団の意にそぐわない行動はする気がさらさら無いけれど。

任務を終えると、彼女と雄はすぐに列車に乗って教団へと帰った。

もうそのころには、彼女の中にあった粒子は消え去っていたし、もちろん子供のこともさっぱり消え去っていた。



*



面倒だ、とレウは思った。

教団に帰ると、あの雌と今回任務を共にした雄のほかに、エクソシストが居て、声をかけてきたのだ。
木の上で昼寝を始めようとしているときだった。下から誰かがおーい、と叫ぶから、うるさいなあと思って、ちらと下を覗いたらそこには、人間で、レウと同じものを身につけている雄がいた。


「新入りのエクソシストですか?」


「……」


この雄、どうやら自分を知らないらしい。だからといって自分から説明する気は無く、関わり合いになりたくないのでレウは無視する方向に決めた。


「僕、アレン・ウォーカーです。同じエクソシストとしてよろしくお願いします」


アレン・ウォーカーと名乗る雄は、鬣が真っ白だったのでレウはシロと心の中で識別することにした。
シロはレウと同じエクソシスト。すなわちAKUMAを狩ることができる人間のようだ。
そう言えば、あの雄とは正反対の色をしている。じゃああの雄はクロになるな、とレウはぼんやり思った。


「あのー?」


「……」


「すいませーん、」


「……」


しつこく声をかけてくるシロに苛立ちながらも、レウは無視を続けた。レウは話せないし、話したくもなかった。そうしたらそれが届いたのか、下から聞こえる声は無くなった。

やっと心置きなく昼寝ができる。レウはちょうどいい気温の中で、ふあ、とあくびをして目を閉じた。

と。


「ストラーイク!」


「!?」


今度はいったいなんだというのか、急に耳元で大きな声が聞こえて慌てて起きてみれば、右隣に、さっきとは違う変な雄がいる。この雄も、レウと同じような服装をしている。こいつも自分と同じエクソシストのようだ。そいつはシロとは違って鬣は赤だった。レウはこの人間はアカだと識別することにした。


「新しいエクソシストがこんな綺麗だと思わなかったさ〜!名前、レウっていうんだろ?俺はラビさ。よろしくな!」


アカは、レウが昼寝をしていたにも関わらず喋りだした。
はじめは驚くばかりだったレウも、だんだんと怒りを覚え始めるのは致し方ないだろう。眠りを邪魔された上に、その邪魔した相手が人間であるのだから。


「―――っ!!!」


「って!!」


レウは、怒りに任せてほえると同時に、アカの頬を引っかいた。それからアカがひるんだ隙に隣の木に飛び移って、また飛び移ってを繰り返して、自分が安全に昼寝できるであろう遠く遠くまでいったのだった。



*



レウは身勝手な人間に苛立たずにはいられなかった。じりじりと太陽が照りつける荒野を、がむしゃらに走りたい気分だった。

あの子供は、シロやアカみたいな人間に比べて随分マシだったようだ。シロやアカとは違ってもっと、自分以外の他を感じ取れる人間だった。そう、どこまで踏み込んでよかったのか、きちんと子供ながらに、いや子供だからこそ、本能で理解していた。
こんなことなら、やはり任務を不満に思っていたときに逃げ出すべきだっただろうか。そして、人間世界との関わりを断絶させるべきだっただろうか。

そこで彼女はハッとした。この自分の思考は、人間である子供に親しみを感じていたようにも取れるではないか、と。人間が嫌いな彼女にとって、それは受け入れがたい解釈の一つだった。人間は、変わることなく永久に忌み嫌うべき存在で、仲間、両親を殺した者と同種なのに。
彼女はそう気づくとすぐに自分の頬を両側からはたいた。人間にとって、頬を打つということがなにを意味するか知らなかった彼女にとっては、自分への罰という意味合いしかなくどこでも叩くところはよかった。しかし彼女は無意識のうちに人間らしい行動をとっていたのであった。


迫る影から逃げ出して


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