きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
人の額は薄っぺらな皮しかないせいで骨同士がぶつかっているみたいだ、とレウは思った。
レウはしばらく子供の額の温度を堪能してから、額を離した。子供は心底安心しきった表情をしていた。
母親とのその行為のあと自分もこんな表情をしていたかもしれない。それは、子供と自分を重ね合わせることへと繋がった。
彼女はそこに子供と額を合わせた理由を見出そうとした。しかし、それだけでもないような気がしている。

子供はレウに気を許したようで、レウにぴったりとくっつくように座った。
レウは少なからず驚いた。それはやはり、全く嫌悪感を感じなかったからである。

もしかすると自分は、人間のことが嫌いではないのか?彼女は自問自答してみる。すると返ってきた答えは嫌いだ、というものである。子供以外の人間がレウの近くに座ると考えると嫌悪感だけでなく苛立ちまで感じ始めるくらいである。しかし子供が隣にいると、触れ合う温もりに安堵さえも感じるのであった。



*



一旦保護した人間は、規則では何処か違う場所で生きていってもらえるように配慮することになっている。
列車をおりると、雄が「教団と連絡を取る」と言い出したので、レウがどうでもいいやと思いながらついていくと、周囲にあまり人間がいないところで雄が黒い鳥を使って子供に聞こえないよう連絡を取り始めた。レウは喋れないため持っているわけがないものだ。一度支給されたことがあるが、丸くて動く物体なのでついついそれとじゃれて、壊してしまったことがあって以来、持たされなくなった。

連絡の声がレウには耳から入ってくるので、そのまま聞いておく。


『一人だけ、生存者がいた。子供だ』


『その子に両親や親戚は?』


連絡に受け答えていたのはどうやらベレーらしい。
雄はちょっと待ってろ、というと子供に質問をした。ぶっきらぼうすぎて子供はやはり恐ろしさを感じている。しかし怯えながらもしっかりと受け答えしていた。レウは心の中で、へえ、とつぶやく。先ほどまで単語しか話さなかった様子だったにしては、進歩ではないか。


『親は母親だけ。そいつはAKUMAに殺されている。親戚とかもいねぇみたいだ』


『なら、孤児院に預けるしかないね』


『適当なとこに預ける』


『その子、母親を亡くしているならちゃんと気をつかうんだよ』


『ああ』


連絡がおわった。会話の流れは、いまいちよくわからないものだった。しかし人間世界のことなどはほとんど自分には関係のないことであったので、レウは理解しようとも思わなかった。


「行くぞ」


どこへ。レウは首を傾げる。子供も同様であった。


「どこいくの?」


「孤児院だ」


「こじいん?」


子供が答えを求めるようにレウのほうをみる。しかしレウは答えられないので、顎で雄に聞けと指示した。


「……お前みたいな子供を預ける場所だ」


すると子供は目を見開いたあと、レウにしがみついた。
レウは小さな衝撃に転んでしまわないよう踏ん張ってから、腰に巻きつく小さな体を見下ろした。なぜ子どもはこちらにしがみついたのか。そしてなにか助けを求めるようにして自分を見つめているのか。レウは理解できなかった。


「い、いかない!僕はお姉さんと一緒にいる!」


子どもはそういってレウのおなかあたりに顔をうずめた。その茶色の髪の毛が鬣のようでつい、手を置いて触ってしまう。すると子どもはレウからのそういう接触を予測していなかったようで、驚いたように顔を上げてうれしそうに笑っていた。レウはその笑顔の意味がわからず、手を離す。すると子どもは悲しそうになった。
レウは思い立ったように子供を自分から引き剥がして一歩下がった。下がるとき足がもつれて転びそうになるのを堪えたり、バランスをとったりするのに慌てる。
子供は引き剥がされてよっぽどショックだったのだろうか。レウが次にみたときは俯いて唇を噛んでいた。

「……いくぞ」

無情さにおいては、レウよりも雄の方が上だったといってもいいのかもしれない。
レウは言いしれぬ違和感がつきまとっているのを感じながら雄についていった。


"人間らしさ"の始まり


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