きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
レウは日陰は涼しいときだけ好きだ。暑苦しかったり、じめじめした日陰は大嫌いである。
今回彼女に無理やり日陰をかぶせた二人組は彼女から言わせればもちろん後者と同様大嫌いだった。当たり前だ。彼女の大嫌いな人間が作り出した日陰なのだから。


「誰かと待ち合わせしてんの?」


「俺らと遊ばない?」


二人組はそのようなニュアンスの言葉をレウに言った。下心どころではない下賤な感情がどろどろに溶け出した笑顔を貼り付けた彼らは、レウと距離を詰めようとする。はじめは拳三個分ほど空いていた距離は、拳一個ほどにまで縮まっていた。

そのときにレウはその二人を睨みつけた。しかし彼らは距離を縮めるのをやめなかった。
レウはその二人の様子に一瞬戸惑った。普通、目で威嚇されたら一度は止まると思ったからだ。ただ、たったのそれだけで対処できなくなってしまうような性格はしていない。レウは体が触れそうになる前に跳躍した。


「え……?」


二人は目の前からいなくなったレウを振り返った。レウはじっと二人を見つめた。その瞳にははざまあみろ、という感情もあったが、一番は純粋な嫌悪が存在していた。レウは一瞬イノセンスを発動させて雄二人に恐怖を味あわせてやろうかとも思ったが、こんなクズにそこまで構う必要があるだろうかと考えた結果やめた。
彼女は人間の姿形をとるようになってから随分と理性とか知性とかいうものを身につけて、頭で考えられる生き物になっていたのだった。
それからレウは歩き出した。切符を買いに行った雄のもとへと行くためだ。人間と関わり合いになるのは極力避けたいが、知らない人間よりかは知っている方がマシではある。そしてなにより、あの雄は自分をイラつかせることが少ないから、近くにいてもひとりで居るのと変わりないのだ(ここで言う"イラつかせる"というのはほとんど"構われる"ことと同義である)。


「……」


レウが歩くとすれ違う人間の10人に7人くらいがレウを振り返った。なぜか、という点においてはなんとなくレウも理解している。ライオンのときにも彼女の周りには逞しい雄たちが多くいた。彼女のしなやかな強さと、毛並みなどの外見の美しさからだった。おそらく、人間の世界でも今の彼女の外見は、中身とは違って美しいといっていいのだろう。ただ、人間のときに美しくてもちっとも嬉しくはないのだが。

そして彼女が探している雄は彼女と同じ種類の外見のようで、周りの人間が発する独特の雰囲気によってすぐに見つけられた。
雄は周りの視線に心底嫌気が指しているようで、自分を見る他人に殺気を飛ばしながら歩いていた。その雄は自分の前方にレウを見つけると一度立ち止まった。レウはいたって普通にみていたのだが、雄の方は何か探るようにじっとこちらを見つめている。何を探る必要があるのか彼女には不思議だった。ただのAKUMA狩り好きな人の姿をした獣に、何か勘ぐることがあるだろうか。


「……」


雄は黙って彼女に一枚の切符を差し出した。結局、今のはいったいなんの真似だったのかは明かされないわけである。
おかげで背中の右の肩甲骨の下のあたりがむずむずして、くねくねと動き出したい衝動を抑えて彼女は切符を受け取る羽目になった。

そんな彼女の心境などお構いなく(構われるのは嫌だが)雄は彼女を通り過ぎて列車の前から四番目あたりに向かっていく。レウは、早く個室でもなんでも入って寝てしまおう、というリラックスすることを頭に思い浮かべて雄についていった。

列車内で、もちろん入ったのは個室だった。ただし残念なことに雄とレウは同じ個室で、これじゃあ列車内でも眠ることができないじゃないかとレウは心の中でぶつぶつと不満を言う。とにかく彼女は自分一匹だけという状況を作りたかったのだ。人間の前では絶対に無防備な姿を晒さないと決めているので一匹のときに眠りたい。

仕方なく彼女は外へと出ることにした。


「どこへいく」


すると初めて雄がレウにかまってきた。彼女はぴくりと耳だけ反応させ、それからふつふつと湧き上がってくる苛立ちを口から吐き出し表に出さないようにする。
彼女はいつだって、人間には何もかも見せないようにしていた。自分については一切悟らせず、そして理解されないように。人間と嘘でも分かり合いたくないからだ。


「……」


彼女は、ノーリアクションで個室のドアを開けた。


「!!」


すると、予想だにしないことが起こったのだった。
次の瞬間、彼女は鼻を床にぶつけていた。


分かり合いたくもない


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