きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
雌について行くと雌の兄のところへと入れられたレウは座れと促されるままふかふかな椅子に座った。彼女の隣にはきれいな黒いたてがみをはやした雄が座っている。雰囲気はまるで自分の仲間のようだなとレウは親近感を覚えたが、たったの束の間だけですぐにその雄の人間臭さに(本当に人間のにおいがするのではないが)大嫌いになった。そもそも彼女は人間が大嫌いだから、それは普通水準の感情だった。ちなみに普通の大嫌いよりあの雌はもっと嫌いである。


「きたね。それじゃあ説明するよ」


雌の兄はレウが理解できると思ったのだろうか、任務の説明をしだした。その説明が眠たくなるくらい興味がなく、彼女はあくびをする。
暇つぶしに彼女は説明をする兄を観察した。雌の兄は何度か見たことあったが、ほとんど毎日同じ格好である。頭にベレー帽をかぶり眼鏡をかけ、レウが着ている服が真っ白になったような服を着ている。ここではほとんどの人間が真っ白な服装だし眼鏡は他にもつけている人間がいるが、ベレー帽をつけているのはこの雄だけだ。今度から区別するときはベレーだな。と彼女は密かに心で思う。


「じゃあ、気をつけていってくるんだよ」


暇つぶしをしている間に説明が終わったらしい。レウは隣の雄に続いて椅子から立ち上がった。ベレーがものすごく口元を引き上げて細目をさらに細くして笑っている。レウはそれがライオン同士で言うなんの行為に当たるのかわからず当惑した。人間はとても分かり辛い。人間に対しての嫌悪感に拍車がかかった気がする。

雄がドアの方へと向かい始めたのでレウもその後に続いた。レウは喋れないから任務には必ず一人はパートナーをつけると、ここへ来た当初ベレーが言ったので、取り合えずついて行けばいいだろう。この場合、適当について行きさえすればAKUMAが狩れる。AKUMAが出てきたら狩る。それがレウの最大の幸福だから、それ以外はどうだっていいのだ。

とりあえず、レウが雄について行くとついたのはもちろん地下水路だ。ここから任務へと向かう。レウは船を揺らさないように飛び乗った。雄も後から乗り込む。そうして船頭役を務める白服が船を進め始めた。

小舟はゆったり揺れつつ進んでいく。レウはこのゆったりした動く物体の上にいたりお腹いっぱいのときに日向あるいは木陰にいたりすると途端に眠くなる。気まぐれに生きているから、それは仕方ない。
しかし、この人間に囲まれた中で無防備に寝る姿を晒すのは癪だ。彼女は睡魔になんとか耐えて起きていようとする。しかしやはり気づかないうちに意識がぼやけ始めるのは仕方がなかった。彼女は船の揺れに合わせて時折船を漕ぎはじめる。結局水路の出口が開けるまで眠気は取れず、船を漕いでいた。開けたさきは、周りが急に明るくなったためまぶしさで目の奥が突かれたように痛む。その感覚でレウは目を覚ました。

船はしばらく進み続けた後止まった。ここからは歩いて駅まで行く。

さきに雄が船をおり、それにレウは続いた。
街中を歩くため、人間のにおいと姿を捉えざるをえないのが、全身がむず痒くなるほど嫌だったがなんとかかきむしるのだけはやめてなるべく視覚と嗅覚を無視して進んでいく。そうしているといつの間にか駅に着くのだ。まだ一、二回ほどしかしていない任務での小さな学習だった。


「ここで待ってろ」


駅に着くとしばらく一人にさせられることも学習の一つだった。おそらく、雄も前のパートナーたちも切符と言うものを買うためにここに彼女を置いていったのだろう。レウはただの自動で動く箱に乗るために、手のひらよりも小さい紙切れにこだわる人間の精神がわからなかった。

雄が戻ってくる間に、彼女は近くにあった壁にもたれかかって待っていた。駅のホームには人間がごった返し、より一層人間のにおいを強く感じる。気持ち悪くなってしまいそうだった。彼らは一定のにおいを発していないから、たくさんのにおいが混じってさらに悪臭となっている。煙くさいにおい、強い花のにおい、人間が髪を洗うときに使うにおい、お菓子のように甘ったるいにおい。

そういえば、あの雄はあまり強いにおいがしなかった。なにかかすかににおいがしただけだったようにも思う。あの雄は人間とは何かが違った。身に纏う雰囲気はこちらに近いような気がする。ただ人間らしい強い欲望のようなものがギラギラしていた。雰囲気だけを見れば自分に近いような気がしていたが、自分の野生の勘のようなものが、こいつは人間くさいと言っている。

一体どっちだ、わけがわからん。

彼女はもともと、面倒くさいことは嫌いだったのでごちゃごちゃ複雑なことを考えるのはやめた。あの雄は人間で自分はライオン。それだけでいいだろう。

そこまで考えた時、彼女の目の前に二人の人間が影を落とした。


関わらざるをえない人間世界


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