きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
「おはようレウ」


食堂に肉の注文にきたレウはピクリと耳を動かした。相変わらず慣れない体と服の感触、そして人独自のこの挨拶などの習慣。苛立ちしか感じない。レウは今すぐにでも威嚇したい気持ちを抑えた。雌の、人間で言う女の性別をしたこの人間は、レウに毎朝この挨拶をする。毎朝、といってもレウはこの人間の生活する空間にきて数日しかたっていない。


「……」


レウはそもそも言葉を喋れないから、その雌を一瞥した後すぐに目をそらす。


「おまちどーん」


雌が苦笑いしているのをなんとなく肌で感じていると目の前に皿に乗った生肉が登場する。雌雄の区別がつきにくい人間が出したものだ。レウは皿を両手で下から持ち、食堂から去る。彼女の食事処は外だ。


「あ、レウ!」


雌がレウの名前を呼ぶ。しかし彼女は無視して外へと行くのだった。


*



日差しがよけられる森林の場所にくるとレウは皿を置き、服を脱ぐ。人間から渡された服で、レウには感触が気持ち悪くて仕方が無い。ただ、着ていないと余計人間からやかましく言われるから仕方なく着ている。脱いだ服は適当に放って置いて、彼女はイノセンスを発動させた。

発動すると彼女の姿は雌のライオンのそれになる。この姿こそ彼女本来の姿だ。この姿の方が牙は生えていて獲物はかみちぎりやすいし体のバランスが取りやすい。何よりいいのは服を着なくていいと言うことだ。彼女はイノセンスを発動するたびにそう思う。ただ難点なのは発動を続けていると疲れてくるから、結局は人間の姿に戻らなければならないことである。

彼女はライオンの自分の姿に満足したように鼻を鳴らすと食事にありついた。
生肉を噛みちぎり、よく噛んだ後に咀嚼する。人間たちがAKUMAと呼ぶ兵器も十分な食料になるがやはり、草食動物の生肉がこの上なくおいしい。むふむふと興奮しながら食べた。すると肉はあっという間になくなる。もう少し食べたいような、いやもういいような……と迷いつつももう少し肉を求めることはやめ、皿だけ返しに行くことにした。

返すのにもいちいちイノセンスの発動をとき、服を着なければならないので面倒である。ずっとライオンの姿でいられたらいいのにと着るたびに思う。それに人間の手指というのは五本の指がばらばらに動くからどうも動かしづらくて困る。この黒い服はジッパーというもので服の合わせ目をあわせるらしくそのジッパーをあげるのにも指先を使わなくてはいけないので一苦労なのだ。ああ、やだやだ。レウは腹立ち紛れにそこらへんにある木を引っかく。ささくれ立った木の皮がつめと指の肉の間にさくりと挟まる。するとぽたりと一滴真ん中の指から血が滴った。この程度で血が滴るのか。レウは人間の体の弱さに吐き気がするほど嫌悪した。このくらいの小さな怪我で痛みは感じたりしないが血が滴ったということが嫌だった。

一応怪我をした中指をぺろりとなめておく。舌にわずかに血の味を感じながら、レウは生肉が乗っていた皿を返しに行った。

皿を返すと、彼女はまた森に来ていた。木の上で昼寝をするためだ。誰にも見つからなさそうな高くて葉が生い茂る木を選んで、人間の姿のままその木の一番低い枝に跳び乗る。そこからどんどん高くへ上っていく。ちょうど寝心地のよさそうな太さの枝が見つかり、彼女は満足そうにそこに寝転がった。
物を食べるときは彼女はイノセンスを発動させて元の姿に戻らないと鋭い歯がないので食べることができないが、そのほかでは身体的に普通の人間よりも遥かに勝るのでまったく問題がない。疲れさえしなければ、ずっとライオンの姿でいるのだが、寝ているときは発動をとかないと眠れないのでしょうがない。


「……zzz」


彼女は早速目を閉じ静に昼寝を始めた。



*



人間の気配に耳がぴくりと動いて、レウは目を覚ました。どうやら遥か下に人間が現れたらしい。その人間はこちらの気配に気づいていないようでキョロキョロと辺りを見回している。


「レウー?」


自分を呼ぶ声に彼女は眉をしかめる。あの雌だ。彼女は人間の中で特にあの雌が嫌いだった。コミュニケーションを取らないことが悪いことのように、声をかけてくるからだ。
だからレウは彼女を無視することにした。どうせ、こんな上にいることなど気づいていないし、気づいたとして彼女が上まで飛んできても昼寝をしている振りをしておけばいい。


「レウ、任務よ。室長室にきて」


しかし彼女の任務だという言葉にレウは反応した。任務ならば話は別だ。無視するなんていうそんな勿体無いことできない。すばやく木を降り、レウは彼女の前に降り立った。すると雌は嬉しそうに笑む。


「さ、行きましょレウ」


本当は嫌いだがレウはこれからの自分の利益を期待して雌について行くのだった。


嫌なものは嫌、好きなものは好き


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