きっと最後は手を伸ばす | ナノ
きっと最後は手を伸ばす
ふざけるな。
レウはあまりの怒りで耳がきーんとするのも気にせず人間の姿を模したAKUMAに爪で切りかかった。


「レウ!」


シロの声が聞こえてくる。レウは人間であるシロの声に憎しみを覚えずにはいられない。
レウは自分がライオンであることに誇りを持っている。常態が人間の姿に変わってしまったときも、イノセンスを発動させれば元に戻れるから耐えれていた。
しかしこれはなんだ。どう説明してくれるというのだ。レウは頭が混乱してなにがなんだかわからなくなった。なにも考えられず、煮えたぎる怒りががむしゃらにAKUMAを破壊させていく。
街中にうようよ存在するAKUMAたちを次々と破壊して行くと、怒りが晴れて行く気がした。


「ば、化け物だ!」


周囲の無知な人間がレウを見て、そう呼んだ。レウはAKUMAを破壊していくことで晴れていく怒りを感じながら、頭の片隅で自嘲していた。

化け物。そうか、もうライオンであることはできないのか……



*



レウは教団の外の森の中で水溜りの前にしゃがみこんで、恐る恐る自分の姿を確認した。水面に映る自分の姿は、決して彼女の求めていたものではなかった。
発達した牙。獣の腕と足。ぎらつく黄土色の目。それ以外は、人間の姿だった。こんな人ともライオンとも言えない姿に打ちひしがれずにはいられない。
レウはそれをぐしゃぐしゃにかき乱して自分の姿が見えない間に発動をといた。だんだん、水の揺らぎが収まって行くと水面には人間の姿をした自分が現れ出す。
彼女は、じっと自分を見つめていた。日が落ちて、自分の姿が水面に映らなくなっても、じっと見つめていた。もう一度発動したときにはライオンの姿になれるかもしれないと期待して、発動しようとしては寸前で辞めることを繰り返して居るうちに暗くなってしまったのだ。


「レウ」


自分の名前を呼ばれて、ぴくりと彼女は耳を震わせる。いつもなら、声が聞こえるまで人の気配に気づかないなどあるはずもなかった。
彼女の名前を呼んだのはクロだった。


「邪魔だ、どけ」


レウは言われるまま、立ち上がってどこか別の方向へ歩み始めた。人間の立ちくらみ、というやつだろうか。しばらくしゃがみこんで居たせいで、前が見えないほど真っ暗になった。レウはそれでも歩き続け、木にぶつかってしまった。目の前に光が戻ってからも木の根に引っかかり転んでしまった。レウはそれでも歩いた。どこへ向かうかはわからない。どこへ行こうともどうでもよかった。


「おいっ……!」


ぐい、と腕を引っ張られて彼女は我に返った。いつの間にか目の前にはなにもなく、びゅうびゅうと体に風が吹き付けて居た。眼下には果てし無く深い闇が広がっている。
レウは無意識のうちにクロの腕を振り払ったが、あまりにも気の抜けた力のせいで振り払えはしなかった。彼女は嫌悪感を感じる前に、目の前にいるクロが人間だということすら認識していない。
そのとき、ぎり、と腕にクロの手が食い込んだ。レウはそこではっと目を見開く。クロの、その姿が、変貌していた。


「う、あ、あ……」


レウが喉奥からだした声は、目の前のクロの手のひらを緩めさせた。しかしもう、彼女にはクロが食い込ませた手が、爪が、獣のそれにしか思えなくなっていた。
化け物。
レウの脳裏に反芻されていく。
そうではないと、クロから目をそらす力さえ湧き上がって来ない。彼女にはクロが、自分も化け物なのだからお前も受け入れろ、と言っているようにしか見えなくて、その真っ黒に濡れた瞳に先ほどまでわずかに抱いていた希望を吸い取られてしまうように感じた。

レウは、すうっとクロの瞳の闇の中に引き摺り込まれた。


化け物とマボロシ


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