05


「興信所とかさがしてあげようか」
「いいよ、大丈夫」
 友人達はその後も自分達で考えたストーカー対策方法を長々と亜沙子に語った。
 美樹はストーカーがどれほど恐ろしい存在かという話を続け、ついには自分まで不安になって青ざめてしまうという始末だった、
 最初はそれほど深刻にとらえていなかった亜沙子だったが、二人が散々脅かすので、落ち着かなくなっていた。
「それで、殺されたって事件もあるんだから!」
「ちょっともう、やめてよ。あんまり怖がらせないでってば」
 心配してくれているのだろうが、不安をあおるようなことばかり言われて次第にくらい気分になる。
 美樹はついに「怖くて今日は一人じゃ帰られない」と言い出した。しかし美樹は一人で帰らなくても済む。香織と美樹は大学の寮に住んでいるので、このまま二人で帰宅するのだ。一人になるのは実家住まいの亜沙子の方だった。
「なんか心配だなぁ。亜沙子、私達が一緒に家までついてってあげようか」
 散々騒いでおいて、亜沙子だけを一人で帰らせるのは申し訳ないと思ったのか、香織がそう提案する。
「いいって、子供じゃあるまいし」
 そうしてもらえたらありがたかったのだが、そこまで切迫した話でもなく、二人に電車賃まで払って付き合わせるのは気が引けた。
「一人でなんて危なくない?」
 なおも香織は心配そうだ。
「平気よ。それに……」
 亜沙子は少し間を置いて言った。「帰りに寄りたいところもあるの」
 友人達は渋々納得した。
 話を大げさにされるのは困ったものだが、それもこれも亜沙子の身を案じてのことなのだ。そういう気遣いには感謝し、いい友人を持ったなぁと亜沙子は密かに思うのだった。
「ごめんね、亜沙子。気づいてあげられなくて」
 美樹が優しく声をかけてくる。
「え、何が?」
「この頃、ため息ばかりついてたでしょ? 元気ないなぁ、とは思ってたんだよね。まさかストーカーで悩んでるだなんて思わなかったの」
「ああ、……うん。それね……」
 亜沙子は鞄からはみ出た財布を、そっと手で押し込んだ。まさか、レポートと小遣いのことで真剣に悩んでいたのだとは打ち明けられなかった。



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