04


 美樹は自分が体験したかのように怯えて己を抱きしめている。
「絶対ヤバイって。もしかして、この前コクってきたっていう例の子じゃない?」
「ていうかさぁ、何で亜沙子はそんなに落ち着いていられるわけ?」
 確かに。
 指摘され、亜沙子も自分の冷静さを不思議に思った。
 ここ数年の間にたくさんの異常な経験をしたせいか、恐怖体験に免疫がついたのかもしれない。一般人ならおよそ体験するはずがないであろう出来事ばかりだった。
 教師を石で殴ったり、父親に平手打ちをくらわせたり、警察で事情聴取されたり、燃えさかる小屋に飛び込んだり、銃を突きつけられたり、人が炎上するのも目撃した。
 改めて振り返ってみると、とんでもない人生である。映画の主人公さながらではないか。
 それでこうして普通に生活しているのだから、自覚している以上に神経は図太い方なのかもしれない。
 亜沙子も急に告白してきた彼が関わっているのかと想像したが、確信はなかった。
 香織の言うように、何かあってからでは遅いのかもしれないという、薄ぼんやりとした危機感はないでもないのだが。
「誰かに相談してみた方がいいって。警察とかさ」
「警察かぁ……」
 気が進まなかった。
 後をつけられている気がしたり、視線は感じるものの、証拠はない。実害もないのに警察がとりあってくれるかは疑問だし、今の時点で警察に駆け込むのは少し大げさすぎやしないだろうか。
「誰かいないの、頼りになりそうな人」
「あ、探偵は?」
 美樹が声をあげた途端、亜沙子はぎょっとした。
「私の従姉妹が、ストーカー対策の相談にのってくれたって言ってたよ。ね、亜沙子。探偵はどう?」
 亜沙子は思わず美樹から視線をそらしてしまった。
 知り合いに探偵はいる。だがその探偵に相談ごとをするのは、警察署に行くより気乗りがしなかった。
 自分がアクション映画の主人公さながらの人生を歩む羽目になった原因の一端が、その探偵にあるような気がしてならないからだ。
 第一その探偵は性格が良くない。相談や頼みごとをすれば、必ず嫌みや恩着せがましい言葉を並べるに決まっているのだ。挙げ句の果てに問題は初めよりややこしくなっていき、新たな問題が浮上し、絡み合ってどうにもならなくなってくる、という展開が容易に想像できる。
 あの男に相談するくらいなら、まだ警察からやる気のないアドバイスを貰う方がましというものだ。



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