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 さほど口が上手いとも思わない。誰でも言えそうなことを言っているだけだ。これで三万もとるのだろうか。
 三万よ、三万。嘘でしょ。
 本来の目的を忘れかけてきたところで、黒峠が「そういえば」と手を叩く。それをきっかけに、亜沙子も思い出した。
「占いとは別の話になるんですが、質問してもよろしいでしょうか」
「いいですよ。私の本名もご存知なんでしょう、探偵さん」
 星樹ユリはゆったりと煙草をくゆらせていて、どこにも焦りを感じない。探偵が来ているとわかっても、訝しそうにしなかった。
 圧倒的な余裕が滲む目つき。彼女は手強そうな相手だ。
 亜沙子は目の端で黒峠の様子もうかがってみる。ティッシュで鼻をかみすぎたせいで、鼻のあたりが赤くなっている以外は、彼もいつもと同じように余裕の顔だ。
「では、鈴木さんとお呼びしても構わないでしょうか」
「ご自由に」
「あなたの息子さんはどこにいらっしゃいますか」
 黒峠は回りくどい言い方をするのが面倒なのかもしれないが、前置きもせず、またしても単刀直入だ。
 冷や冷やしながら星樹を見ると、薄ら笑いを浮かべていた。黒峠も薄ら笑いを浮かべている。
 私も薄ら笑いを浮かべるべきだろうか? と亜沙子は当惑したが、すぐさま冷静になった。そんなことをする必要はない。
「息子……ねえ。息子は確かに産みましたよ。でも、どこにいるかは知らないわ。一緒に住んでたこともあったけど、前の夫が親権を持っていて、連れて行ったから。息子が何か?」
「私と息子さんが、ちょっともめているんです」
「それなら、警察に行かれたらどうですか」
「残念ながら私は警察が嫌いなんです。それに、気になることは自分で解決する主義でしてね。あなたは占い師さんですし、息子さんの居場所を占ってもらえませんか」
 鈴木は煙を吐いた。亜沙子が小さくむせたが、それを気にする様子はない。
「また、あなたのもとへ現れますわ」
「そうかもしれませんね、私のことを調べているみたいですから」
「残念ですけど、黒峠さん、無駄足ですわ。息子がどこにいるか、私にはさっぱり見当がつきません」
「そうですか」
「そういうことなので、引き取っていただけるかしら」
 鈴木は毒々しいルージュに彩られた唇に、艶やかな笑みを浮かべた。



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