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 ここの内装はとにかく、「悪趣味」の一言に尽きる。
 鳥の剥製や、何かのホルマリン漬け。皮表紙の本。頭蓋骨の形をした照明器具。何の統一感もない。怪しさで勝負しているとしたら、どこにも負けてはいないだろうが、このチープっぽさには目を見張る。学園祭のお化け屋敷と良い勝負のムードである。
 壁に殴り書きされている、どこの国のものかわからない文字を黒峠は鼻声で読み上げていた。彼はこの場にふさわしい人物だと言えるかもしれない。
「占いの料金だけどさ、初回は三万円だって」
「さんまんえん!」
 亜沙子は叫んだ。
 占いの相場など詳しくはないが、高額すぎやしないだろうか。以前の手相占いの料金は、千二百円しかかからなかった。
 どこまで胡散臭いのだこの店は。
 急に不安になって、亜沙子は黒峠をつついた。
「もう、私にたからないで下さいよ。三万も持ってませんから」
「わかってるよ。君が三万も持ち歩いてるなんて期待してないから」
 腹の立つ言い方である。
「先生、お金持ってるんですか」
「持ってる持ってる」
 軽い返事が不安をあおる。食事代すらたかった黒峠が、普段どれほどの金を持ち歩いているというのか。やっぱり持ってないから、とんずらしようと後々誘われるのではないだろうか。
 そうなったら、無関係だと主張して、この男をつき倒してでも一人で逃げよう、と決意する。
「で、何を占ってもらうんですか」
「健康運」
 黒峠は鼻声で呟く。
 占う前に、病院へ行くべきだ。
「熱はないんですか。薬は飲んでます?」
「薬が嫌いなんだよ、私は。錠剤はのどに引っかかるし、粉末はむせちゃうんだ」
 まるで子供だ。これでは風邪もなかなか治らないだろう。
 暇を持て余し、壁にかかっている蝶の標本を眺めていると、ようやく受付の女性が戻ってきて、どうぞ、と奥を指した。
 黒峠と亜沙子は同時に立ち上がる。
「私も同席していいでしょうか」と亜沙子。
「構いません」と女性はマスクごしにくぐもった声を出した。
 一人で行ける、と黒峠は亜沙子を追い払う仕草をするが、また何をしでかすか心配で待っていられないので、亜沙子は強引についていった。



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