18


「宮崎君という生徒をさがし、君が誰かにつけられているのか調べていたのさ」
 それは許可をとってやっているのだろうか。黒峠はいつも「許可をとる」というプロセスを全く重んじていない。もしこれが問題になり、彼が咎められたりすれば、頼みごとをした自分も責任を問われるのではないだろうか。
 亜沙子は迷惑そうな顔をした。
「何しかめつらしてるんだ。君のためじゃないか」
 だから真っ向から非難できないのだ。
 黒峠はいきなり亜沙子の肩を叩いた。
「さて、行こうか柊君」
 行ってくるね、ではなく、行こうか。
 そう呼びかけるということはつまり、二人連れ立って行くということだろう。
 本音をいわせてもらえば彼と並んで歩きたくはない。目立つので、知り合いに見つかって噂でもたてられたら迷惑極まりないからだ。
 柊亜沙子、校内を不審者と歩く。家族か友人か恋人か。
 ――冗談ではない。
「どこに行くんです?」
「図書室だよ。この大学は図書室のある建物が、教室のあるところとは別棟になっているだろう。一般開放されてるじゃないか」
 一人でどうぞと言ったのだが、亜沙子も一緒でないとならないらしく、しかしその理由は話してくれない。
 どこを通ればたどりつくのか熟知してるとみえ、黒峠は迷わず最短のルートを選んで図書室へ向かった。放っておく勇気もなく、亜沙子もあとに続いた。
 これからの平穏なキャンパスライフを乱すことに繋がりそうな行動や極力止めなければならない。既に、校内をうろつくのを止められていないのだが。
 この学校の図書室はそこそこ広い。建物は二階建てで、資料の他にも文芸書の新書、雑誌までそろっている。市立図書館まで行かずとも、大抵の用は足りた。DVDやCDの貸し出しも行っており、専用の閲覧室がある。混み合うほどではなかったが、利用者は多かった。
 入った途端、貸し出しカウンターにいる係員の女性が向けてくる視線が痛い。すごく奇抜な服装をしているというわけでもないが、全体の雰囲気が黒峠を目立たせている。一言で言えば「怪しい」。
 黒いロングコートとの対比で肌の白さが際だっている。亜沙子は今更のように黒峠の足下から頭の方へと目線を移していって、顔をまじまじと見た時に、彼の顔色が悪いことに気がついた。元々血色の良い方ではないが、今日は一段と青ざめている。
「うさぎの本はどこだろう」
 そう呟くと、黒峠は大きな歩幅で歩きだした。追いつくのが大変な速さで、亜沙子も慌てて小走りで追いかける。そんな二人をカウンターの係員は目だけ動かして見ていた。
 黒峠は奥へと進み、「第二書庫」という札のある部屋へたどりついた。そこは書架の間の通路が狭く、どの棚にもぎっしりと本が詰められている。古文や洋書、図鑑など、専門書の割合が多く、需要がそれほどない本がおさめられているという印象だ。とにかく難解な書物が溢れている。



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