16


 結局、平和が一番なのだ。
 黒峠は様々な想いを抱えつつ、ポケットに手をつっこんで事務所へと戻っていった。

 * * * *

 今日こそは授業に身を入れて、学生らしく勉学に励もう。
 実は毎日のようにそう思っている。嘘ではない。学ぶ気はあるのだ。
 それなのに、どうしてこれほどまでに眠くなるのだろう。睡眠時間は十分にとっているはずなのだが。授業が始まると睡魔に襲われてしまう。そして授業が終わると、何事もなかったかのように目が覚める。
 これは拒否反応というやつだろうか。情けない。頑張れ私。気合いよ。気合いで眠気なんて吹き飛ばせばいいんだから。本当は勉強が大好きなのよ。
 そう自分に言い聞かせつつ、夢と現の狭間をさまよう。白目をむきそうになりながら、亜沙子はシャーペンを握っていた。
 休み時間、板書を写したノートの文字は判読不能で、亜沙子はため息をついた。
 そんな亜沙子の元へ、昨日のことを心配していた美樹がやってくる。
「亜沙子、昨日はどうだった? 変なこと、なかった?」
「うん、平気だったよ」
 講義が長引き、この時間になると食堂はもう満席だ。亜沙子は美樹と一緒に生協へ昼食を買いに行くことにした。近道をしようと、人通りの少ない廊下を歩いた。
「それで、誰かに相談はした?」
「まあね。全然頼りにならない人だけど」
「意味ないじゃん」
 それもそうだなのだが、亜沙子としてはストーカーが本当にいたとしても、そのうち相手も飽きてことはおさまるのではないかと楽観し始めていて、黒峠に相談してからはさほど気に病んでいなかった。
 今日は視線を感じるとか、あとをつけられているといった感じはない。このまま何事もなく、気のせいだったと笑って済ませたかった。
「絶対亜沙子にコクッた一年の子が犯人だって」と美樹は息巻く。
「だからぁ、まだ決まったわけじゃないって。あんまり疑うと悪いでしょ?」
 よく知らない人だが、自分に好意を持ってくれた人をなるべくなら悪者にはしたくない。
 それにしても、いつも感じていたあの視線。校内、帰り道、駅のホーム。休日に外出した時も感じたことがある。仮にストーカーがいたとして、それは随分と暇な人なのだろう。
 そんなことを考えていた時、ふと視線を感じた。
 こんなひと気のない廊下で、一体誰が?
 亜沙子はためらわず、即座に振り向いた。



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