03


 一度だけ、友美の弟を見たことがある。確か友弥はまだ中学生のはずだ。羽田姉弟は幼い頃に両親を亡くし、親戚の家に引き取られている。友美は大学生ということもあり、家を出ようと思ったこともあるそうだが弟を置いていくのも気が引け、親戚にも止められたのでまだそこで一緒に暮らしているそうだ。
 羽田友弥は見た目からして、優等生には見えなかった。そうかと言って完全な不良ではない。欠席は目立つが学校には遅刻しながらも行っているし、犯罪に手を染めるようでもなかった。ただ目立つ格好をして、遅くまで出歩き、たまに帰ってこなくなる。しかし家出をしても、いつも一週間程度で帰ってきていた。それが今回は、二週間経っても帰らないというのだ。学校にも行っていない。
「警察に届けたりしたの?」
「してない。前も何回か届けたことがあったんだけど、その時はすぐに帰ってきたし。またか、って警察も思うでしょ。ちゃんと捜してくれるか分からないもの。叔父さん達には、友弥は友達のところにいるんだって言ってあるんだけど」
「私は警察に言った方がいいと思うけどな。あの話もあるから」
「それは分かってるんだけど、あまり大ごとにしたくないのよ」
 最近、ある事件が起きていた。「あの話」とはその事件のことだった。
「それで、亜沙子の知り合いの探偵さんに弟を捜してもらいたいのよ。良い人なんでしょう」
「良い人?」
 亜沙子は聞き返した。黒峠の顔を思い浮かべてみるが、良い人の顔ではなかった。
「良い人、ね。うん、良い人というか」
 良い人か良い人じゃないかと問われれば、良い人ではないと答えるかもしれない。悪い人ではないのだが。
「すごく、変わった人かな」
 そうと決まれば早く行動した方がいい。彼に会いに行こう。一緒に事務所に行かないかと友美を誘ったが、用事があるからと断られてしまった。友美は自分でも弟を捜してみると言った。
「あまり頼りにならないかもしれないわよ、その探偵」
 期待されても困るので、先に言っておくことにした。
「でも、探偵なのよね?」
「いや、探偵と言えば探偵だけど」



[*前] | [次#]
- 3/114 -
しおりを挟む

[戻る]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -