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 こんな燃えやすいものがある場所で花火なんかして、火事になったらどうする気だろう。こういうところに来てふざける輩が、火事のことなど気にするはずもないか。真夜中の心霊スポットではしゃぐ若者の声が聞こえてくるようだった。
 足を進める度、ガラスや木片が足の下で音を立てる。足場は最悪だった。自分がついているから安心しろなどと言った黒峠だが、亜沙子を無視して一人で先に進んでいた。ある部屋に入ると立ち止まり、落ちている紙屑を拾い集めだした。この並びの部屋は壁が破壊されていて、三つの部屋が続いていた。
「どう、女の鋭い勘で気づいたことはないかな」
 懐中電灯を手にしゃがみこみ、紙くずに目をやったまま黒峠は言った。そう言われても、目につくのはゴミばかりだ。どうせ私はもしもの時の囮なんでしょ。期待なんてしてないくせに。亜沙子は腕組みをして辺りを見回した。
 早く家に帰りたい。片付けてしまわないとならない課題があるのだ。提出期限が迫っているレポートもある。だが、全ては友美の為だ。何とか弟を見つけてあげたい。そして、黒峠有紀から離れたい。
「先生、ちょっと気になってたんですけど」
「何だい」
「先生って、今までどんな事件を解決したことがあるんですか」
 実は以前から気になっていた。黒峠の仕事の話はあまりしたことがない。刑事とも知り合いなのだし、何かの事件には関わったことがあるだろう。
「ないよ」
 沈黙が流れた。
「何て言いました」
「だから、事件なんか解決したことないんだよ。そもそも事件って君、この平和な世の中でそう事件と遭遇するわけないじゃないか」
「だって刑事と知り合いなのに?」
「警察が探偵に事件の捜査協力を願い出ると思っているのかい。ドラマの見すぎだよ柊君。普通の探偵さんはね、浮気調査とか身辺調査とか家出人捜索とかの依頼ばかりだ。私の小さな事務所なんて、せいぜいペット捜しを頼まれるくらいかな。それも解決したことがないけどね。依頼人と揉めて新たな問題が発生することは多々あるよ。自慢じゃないけど」
 本当に自慢にならない。時間を遡ることが出来るなら、是非友美の弟捜しの件はなかったことにしてほしい。黒峠が絡むと見つかるものも見つからないようだった。
「浅野さんとはどういう関係なんですか?」
 刑事と探偵が知り合いなのは当たり前だと思っていたが、今の話を聞くとそういうことでもないらしい。二人を見ていると親しい間柄のようだが、どういった関係なのかはまだ聞いていなかった。紙屑を集めていた黒峠の手が止まった。
「大した関係ではないよ」そう言ってまた手を動かす。
「長い付き合いでね。実は私の父が……」



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