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 本当に冗談かどうかは疑わしい。やはり黒峠に相談したことは間違いだったのだろうか。友美の弟捜しがいつの間にか殺人事件の容疑者捜しにすり替わっている。
「分かったよ。息抜きに友弥君を捜そう」
 そんなことを息抜きにされてはたまったものではない。残りの調べ物は円に頼むことになり、二人は羽田友美の家の前で車を降りた。
「いい加減な調査はしないで下さいね。いくら無料だからって」
「何を言うんだい。私はいつでも全力投球さ」
 友美の家のまで来たものの、呼び鈴を押す気にはなれなかった。友美から聞けることは全て聞いたし、ここは友美の叔父夫婦の家だ。黒峠みたいな変人を紹介するわけにもいかない。家より、友弥が行きそうなところを捜してみないかと黒峠に提案した。
「叔父さん達に話を聞いた方がいいんじゃないかな」
「だめです」素早く亜沙子は答えた。
「だって、思い当たるところは調べたんじゃないの」
「念には念を、と言うじゃないですか。友美は調べたみたいですけど、もう一度私達で調べてみましょう」
 黒峠はあからさまに疲れた顔を見せた。長距離ドライブで体力を消耗したのだと訴える。それはこちらも同じだと亜沙子も反論した。座りこもうとする黒峠を引っ張って立たせる。とりあえず、友美から聞いた友弥がよく行くという場所を当たってみることにした。コンビニに入り、友弥のことを聞いてみる。黒峠はつまらなさそうに後ろで突っ立っていた。先の殺人事件絡みのことはあれほど張り切って調べていたというのに、この態度の違いは何なのだろう。
「こんなことをしても、友弥君はみつからないと思うよ」
「どういうことですか。また面倒だからって適当なことを言っているんじゃないですよね」
 黒峠は黙った。全く、何を考えているのだろうか。
「コンビニとかで聞いてもだめだと言うんだよ。例えばそうだな……そう、そこだね」
 そう言うと黒峠は目の前にあるゲームセンターへ入って行った。確かにゲームセンターなら友弥も行きそうだ。こういうところは大学生になってから暫く行っていない。相変わらずゲームセンターというのは騒々しいところだ。休日ということもあり客は多かった。
「ここは、最近店舗改装したばかりのゲーセンなんだよ」
 黒峠が声を張り上げる。そして迷うことなくあるゲーム機の前に立ち、百円玉を投入した。
「まさか、ゲームやるんですか」亜沙子も大声を出した。
「上手いよ、見てて」



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