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 それにしても、こんなことで友美の弟が見つかるのだろうか。いくら関係がありそうだからと言って、殺人事件に首を突っ込む必要があっただろうか。しかも、何故か黒峠はこの件に関して積極的だった。
「羽田さん」
 円が言った。
「羽田友美さんって、どんな方ですか」
「友美?」
 どうして突然友美のことなんか。
「どんなって言うと……」
「面白い情報が手に入ったよ」
 黒峠が騒々しく車内に戻ってくる。黒峠の「面白い」は大抵亜沙子にとって「面白くない」ものだった。重村の家には定期的に訪ねている人物がいたらしい。そして最近、重村勝吉は留守にしていた。
「これで第一発見者兼容疑者の目星はついたな」
「もう?」
 やけに早い。もう事件解決か。いや、そもそも事件を解決する気はない。目的は友美の弟を見つけることだ。黒峠は熱心に黒い手帳に書きこんでいた。
「先生、友美の弟は見つかるんですか」
「うん、見つかる見つかる」
 適当な返事だった。信用出来ない。
 黒峠の話によると、重村はここ数年働いていなかったようだ。だが、家賃の滞納などはなかった。どこかから収入があったということだ。彼は第一発見者の男を見つける気なのだろうか。もしかしたら人を殺した殺人犯かもしれないのだ。そんな危ない人間を捜すなど、どうかしている。警察には嘘をついたことを謝ればいいのだ。嘘をついたからと言って代わりに犯人を見つけなければならないという法律はない。
「重村は人との付き合いがなかった。カラクリ解散の後はずっとだ。ということは……」
「そのカラクリが何か絡んでいそうですね」と円。
「面白いくらいスムーズに解決していくね柊君」
 亜沙子は答えなかった。面白くない上に、こちらの問題の方は進展がない。まさかこの男、友美の弟のことを忘れているわけではないだろうな。
「友弥君のこと、忘れているわけではないですよね」念の為に聞いておくことにした。
「誰、友弥君て。君の彼氏?」
「友美の弟ですってば!」
 黒峠につかみかかろうとする亜沙子を、円がなだめた。「落ち着いて、柊さん」
「冗談だよ、そう怒らないで。しわが増えるよ」
「ありませんよしわなんて」



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