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 とにかく眠かった。早朝ということもあり、車通りは少ない。黒峠からの電話を、両親はどう思っただろう。先ほどは適当に言って出てきたが、帰ればしつこく彼との関係を聞かれるかもしれない。それを考えるだけで憂鬱だった。警察署に行ったことも秘密にしてあるし、今までのことを正直に言う気にはならない。帰宅するまでに良い言い訳を考えておかなければ。この頃は嘘をついたり誤魔化したりの繰り返しのようだった。
「ところで、これからどこに行くんですか」
「重村の実家だよ」
 寝起きでぼんやりする頭で必死に考え、ようやく重村というのが例の殺人事件の被害者だったということに気づいた。
「どこなんですか」
「ついてからのお楽しみだよ」
 黒峠のウインクは、寝不足の亜沙子を苛立たせた。いきなり重村の実家とは。行って何をするのだろう。
「実家って、そこにも警察がいるんじゃないですか」
 被害者の家族のところにも、警察は話を聞きに行くだろう。
「この時間は警察だって寝ているよ」
 それもそうだ。そうなのだ。警察も動かない早朝だ。こんな時間に動いているのは新聞配達員と自分達、それからカラスとスズメくらいだろう。それからかなりの時間が経ったが、目的地に着く気配はなかった。聞いてもはぐらかされるばかりで、円が答えようとすると黒峠が口止めをする。
 市街地からはどんどん遠ざかっているようだった。重村の実家はどこで、後どのくらいで着くのか。そもそも本当に目的地は重村の実家なのか。私はどこに連れて行かれるのだろう。とにかく油断しないことだ。そう思いながら、眠気に負けた。

 * * * *

「柊君、そろそろ到着するよ」
 自分が口を開けていたことに気づき、亜沙子は慌てて手で隠したが遅かったようだ。黒峠がにやついている。車は停まっていた。
「何笑ってるんですか」
「見ちゃった柊君の寝顔。賢そうではなかったよ」
「どこまで失礼なんですか黒峠先生は!」
 円は車から降り、地図を見て確認をしているようだ。田んぼや畑など、のどかな風景がどこまでも続いている。全く見知らぬ場所だった。
「ここはどこですか」
「秘密」



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