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「麻薬ですか?」
「はい」円が答えた。「一部の人間が結託して悪事を行っていたようです。暴力団関係者もまじっていたそうですからね。重村はカラクリのメンバーや知り合いに、全く効果のない健康食品を高額で売りつけていたようです。被害総額は二千万以上とか」
「二千万!」
 黒峠が軽蔑したような目つきで振り向いた。
「君はお金の話には敏感なんだね」
「びっくりしただけじゃないですか」
 肩をすくめて黒峠は前に向き直った。
「それで円さん、第一発見者の情報は」
「それがよく分からないんです。第一発見者というか、通報者ですね。声からすると男だったいうくらいしか。死体を見つけたから来てくれ、と言って、姿を消したらしいです。声が落ち着いていたことや『死体』と言い切ったところから、事件に何らかの関わりがあるのではないかとにらんで警察は動いているようですね」
 そういう情報はどこから仕入れるのかが不思議だった。素人が簡単に調べられる内容ではない。しかも昨日の今日だ。
「まいったなあ」
 黒峠は足元にあった黒い鞄を持ち上げた。何が入っているのかと思えばせんべいだ。袋などには入れられず、むきだしのまま大量に入れられている。それを一枚とってかじっていた。しけっているような音がする。
「早いところ発見者の正確な情報を仕入れないと、浅野さんに嘘がバレる」
「嘘って、私のことですか。見てないのに見たって言ったことですか」
 黒峠が首を横に振る。
「全部だよ」
「全部?」
 せんべいをかじりながら黒峠は続けた。
「嘘なんだよ、全部。第一発見者が四十代くらいでやせ型の、髪の短い緑のジャージを着た男だなんて口からでまかせだ。私は第一発見者が逃げたということしか知らない」
「じゃあ、何もかも嘘じゃないですか」愕然とした。
「そうだね。嘘だね」
 悪びれる様子はない。見ていないのを「見た」と言っただけかと思ったが、それどころかほとんど全てが嘘だったと言う。浅野達は存在しない四十代くらいの男を追うことになってしまったのだ。それにしても悪質な嘘だった。
「さあ、明日からはりきって調べよう。もう後戻りは出来ないしね」
「待って下さいよ。私は学生ですよ。授業があるんです」
 それを口実に逃げようとしたのだが、黒峠は振り向かずに笑った。



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